第3話

 街へと戻り、手頃な冒険者でもいないか探していた。


「あのクソ野郎、無能の俺が冒険者のパーティーに入るのに、どれだけ苦労したと思ってんだよ」


 冒険者というやつは、バカなぶん、考えが単調で、弱いやつはいらん。エロい女ならいい。そういう考えの奴らばかりだった。

 俺は男だし、戦えない。Lv1にも劣る戦闘力の持ち主だ。


 ようやく入れたのがあのパーティーだった。

 必死について回って、あいつらの忘れ物を届けてやってたら、荷物持ちとして採用された。一週間も泥水をすすってそうやってたんだ。それを順調になってきた途端抜けろだと、あいつはふざけたことを言いやがった。

 だから、追放させるよう仕向けたのだが、はあ、アザが消えねえ。


 ギルド一階の酒場には、よく人が集まる。そこが狙い目だ。まず目星をつける。


「お淑やかな子がいいな」


 と考えていると、押し飛ばされて、転んだ少女が目に入った。


「きゃああ!」

「いらねえよ! Lv1のくせにゴブリンもろくに倒せねえ雑魚は! そんなんで報酬もらえると思うなよ!」


 ちなみに報酬はこいつらが計算できないので、職員が振り分けているのだが、その際に大体四割くらいぼったくられている。

 なんというか、そういう話をする冒険者を見るのは滑稽だ。


「お、おねがいします、入れてもらわないと私は牢獄行きなんです!」


 そりゃ当然、冒険者なのだから当たり前だ。魔物は強いし、冒険者でも一人じゃ勝てないから大体パーティーを組むのだが、いつまでも一人でいると魔王討伐の意思なし、として処罰される。


 一般人からしてみれば、諸刃の剣だしな。


 決めた。あの子にしよう。


「あっち行け!!」

「きゃあああ!」


 蹴り飛ばされた彼女に手を差し伸べる。


「よかったらパーティー組まないか?」

「え……いいんですか?」

「もちろんだ。俺が立派に戦士にしてやる」


 感激、といった様子で俺の手を取ったのが、数日前。


「あの、なんで戦わないんですか」


 早くもLv2となった彼女から、酒場で問い詰められていた。


「俺は頭脳派だからだ」


 あのクソ野郎、この数日間一度も連絡をとってこなかった。俺はこの子と魔王討伐しろってことなのか?

 だから一応、用済み扱いされないように、魔物に勝った際は俺のおかげ感を強く出していたのだが、ちょっと強くなったらこのざまだ。


 侮蔑の視線でこちらを見ていた。


 全く、元いたパーティーの奴らが比較的まともだったとは思いたくもねえ事実だぜ。


「戦いに頭なんていらないんですよ」

「俺が指示出さなかったら、お前ゴブリンにもボコボコにされるじゃねえか」

「最後には勝ってるのでいいんです」


 俺がスキル使ってやってるからな。つまりお前は、たかがゴブリンに死ぬほど追い詰められてるということだ。

 勘違いすんな?


「あなた魔王討伐に役立つんですか」

「相手が強いほど、作戦が必要になる。お前はただでさえ力がないんだから、ゴリ押しじゃ勝てんぞ」

「最後には勝つのでいいんです」


 ああ、もどかしい。

 一回こいつにわからせてやりたいが、俺がスキルを使わなければこいつは死ぬし、使えば、最後には自分の力で勝ったとさらに思い込む。

 なんでこんなクソスキルをよこしたかな。

 まともに攻略すらできねえぞ。


 仲は絶妙に険悪なまま、数ヶ月が経ち、俺たちは魔王へと着実に近づいていた。


「へえ、意地でも戦わないつもりなんですね」

「お前も相変わらず一回は殺されかけないと魔物に勝てないようだな」

「ふざけるな!」


 いや、お前がふざけるなよ。

 あ、そうだ。この辺りに俺を追放しやがったあいつらがいるはずだ。

 そして、それはすぐに見つかった。


 暗く鬱蒼とした森の中、オーガと戦っていた。

 あれは確かLv7クラスだったはずだ。あいつらにちょうどいいレベルだな。


「見ていろ。俺が昔いたパーティーだ」

「懐古厨ですか」

「よーく見ていろ。あいつらがピンチになるときにどうなるかあの男は死ぬ、そして女二人は覚醒してあのオーガを倒す」


 しばらくして、それは予想通りになった。


「うおおお!! オラオラオラオラ!!」


 キンキンキンキンキンキンキン!!


「グモオオオ!!」

「危ない!」


 男は振りかぶった棍棒に打たれ、吹き飛んだ。


「がはっ!!」


 条件を達成しました。


 もちろんスキルは使わない。


「は、早く立ってください! いつものあれで倒してくださいよ!」

「そうですわ! 私たち後衛なんですから、困りますわ!」


 声を掛けるが、ピクピクと痙攣するだけで、男は立ち上がらない。


「いつもならお前、どうなる?」

「私? あそこで覚醒してあのくらいのオーガボコボコにしてあげますけど」

「……普通はあそこまで追い込まれたら死ぬんだがな」

「私は強いので」


 なら追い込まれずに戦えと言いたい。


 ドチュ!!


「きゃあ!!」

「嘘、ほんとに死ぬなんて!」


 冒険者家業は死んで当たり前の世界だ。俺の思っていたほど驚いてもいないようだが、人が殺される光景というのは目に毒だな。


 まあちょっとスッとしたが。


「え……あの人覚醒しないんですね」

「そりゃな。俺がスキ……」


 ズキン!!


『こらこらーそれはその世界にはないスキルなんだから言っちゃダメでしょー』


 クソ野郎が。

 数ヶ月音沙汰なしかと思ったら、急に話しかけてきやがって。詳細を話したらダメだということか。


「どうしました?」

「俺がスキルを使って覚醒させてんだよ。色々制約はあるがな」

「うさんくさ! 病気!? 絶対治らない厨二病という病気では!?」

「見ていろ。次はあの女が危険に晒されるが、覚醒してオーガを吹き飛ばすはずだ」


 条件を満たしました。


 もちろん、使う。


 思い切り体を掴まれ、絶体絶命だった女の一人の体がぴかっと光る。レベルアップの前触れだ。


 そしてそのまま、頭部を炸裂させ、オーガは生き絶えた。今のは爆発魔法か何かだな。


「どうだ?」

「言った通りに……なった。」

「だろう」

「まあ、その観察眼だけは認めてあげましょう。あなたは私が土壇場で覚醒する体質だと見抜いて、私をパーティーに引き入れたんですね!」

「チゲーけど、まあいいわ。これで多少俺のありがたみについて分かっただろう」

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