第2話

「手切金が一トロン、か。」


 少ねえ。これじゃぱんのひとつも買えやしねえ。

 あいつら、弱いからって足元見やがって。でもまあいい。今回の寄生で大まかな俺のスキルの概要は掴めた。

〈ご都合主義〉――大まかに言えば、都合の良い展開を、強制的に持ってくるスキルだ。


 街道を抜け、森の中をしばらく歩く。


「きゃあああああ!」


 森で、襲われている荷車に遭遇した。護衛が二人と、馬を動かす女が一人。

 やたら大きいゴブリンだ。サイズが人間をゆうに超えている。あれだとホブレベルにいってるんじゃないか?


「くそ! なんだこいつ!! こんな街の近くにホブが出るなんて聞いてないぞ!!」

「ホブなんて、Lv2の冒険者が相手するレベルだろ!? 俺たちゃまだ1だぞ!!」


 容赦無く迫るホブゴブリン。大きななたを振り下ろした。


 ガキん!!


「ぐはあ!!」

「大丈夫か!」


 剣で受けたものの反動で大きく飛ばされ、そのまま気を失ってしまった。


「くそおお……こんな危険な仕事なら受けてねえっつの、」


 ジリジリと歩み寄るホブ。男も剣を構えて、応戦しようとしていた。

 そろそろだな。

 普通、死にそうになったら逃げれば良いだろう。俺もそう思っていた。別にこれはあの男らの正義感が強いとかそういうはなしではない。

 冒険者の契約違反はかなり厳しい処罰が課されるのだ。上限は極刑。逃げたとなればそこに拷問が課される。


 バゴ!!


「くはっ!」


 蹴られて、地面を転がる。ホブは追撃しようと、大きく飛んだ。


 あ、これ死んだな。


 ――条件が満たされました。


 すかさず俺はスキルを発動させる。


「まだ、まだだああああ!!」


 死んだかと思った男は、ホブのナタを避けた。


「うおおおおおお!!!!」


 横一閃。ホブの右手首に銀の線が走る。


「ぐぎゃあああああ!!」


 ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅ!!!


「まだだあああ!!」


 ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅ!!!


「まだまだあああああ!!」


 ざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅざしゅ!!!


「はぁ、はぁ、倒した……」

「あ、ありがとうございました!」

「いえ、これが僕の仕事ですから」


 今回のご都合主義の効果内容を分析してみる。おそらく物理的接触があったため経験値が入って、あの男がLv2にレベルアップしたんだろう。

 スキル効果の再確認はできた。



 で、俺はどうすれば良いんだ? お前の望み通りパーティーとやらから脱退されてやったが。


 俺は心の中で念じる。


『くくく、いい殴られっぷりだったな。』


 うぜえな。お前があーやれって言ったんだろが。あいつもバカだから本気で殴ってきやがって。まだ痛みがひいてねえんだぞ。


『我にはその痛みとやらはわからん』


 ああそう、どうでもいいが、早くお前の目的を教えろよ。俺は早く元の世界に帰りてえんだよ。血なんざ見るのは懲り懲りなんだよ。


『くくく、普通の人間なら優越感に浸れて最高の環境だと思うがな?』


 この世界のどこが優越感に浸れるんだよ。ろくに戦えもしねえでバカどもの荷物運び、劣等感しかねえよ。まあ確かに、陰で助けてやってる分、俺のおかげなんだぜくくく。はできるけどな。


『それが良いのではないか、達観して世界を見るというのは楽しいぞ』


 悪趣味な野郎だ。つかてめえなんなんだよ。


『それは教えられない』


 訳のわからん世界に送り込みやがって。


『ん? 貴様ゲームを知らないのか? ドラ○エを知らないのか?』


 んだよげーむって、知るかよ。


『それは驚いた。よくそれでここまで生きてこられたものだ』


 嬉しくねえよ。


『魔王を倒せ、我の目的はそれだけだ』


 魔王ってなんだよ。敵国の王様殺せって言ってるものか?


『そうだ。魔王も知らんとはな、まあ良い。現魔王は五十年以上無敗を誇っている。お前はその魔王を倒し、世代交代させるのだ』


 訳がわからん。なんでよその国のお世話してやらんといかんのだ。


『それがお前の使命だからだ。スキルを授けただろう? それを駆使して成り上がれ』


 ふん、自分に効果のないクソスキルね。

 敵国の王様殺して欲しけりゃ、回りくどいことせずにもっとマシなもんよこせ。


『ちなみに、リミットは二年だ。二年でそれが果たせなければお前は元の世界には帰れなくなる』

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る