エルフの国

 険しい顔をされたグロード様は、深くため息をつかれました。


「質問に質問を返して悪いが、なぜそれを先に聞く?」


 グロード様は、私とラスティカのやり取りを知らないようでした。あの場に来たのは、闇魔法の気配を感じて飛んできたそうで、一部始終を見ていたわけではないからです。


 そこで私は、事の顛末をすべて話しました。私たち親子が殺された理由、領主をすげ替えて起こそうとした戦争の話を。


 全てを聞き終えた後、グロード様は深くため息を疲れたした。


「なるほどな。当初お主が我ら魔物の国を巻き込んだと思ったが、巻き込んでいたのは我らの方だったとは」


「なぜエルフの国は魔物の国との戦争を望んでおりましたの?」


 戦争は勝たなければ意味がない。ハイリスクハイリターンな戦略です。今回エルフの国は間接的に魔物の国を攻めようとした、つまり自国に何の利益もなければ不利益ももたらさないことです。


 いえ、利益はあったのでしょう。なにせ勝てば魔物の国の領土を減らせたのですから。


「エルフの国と我ら魔物の国は長きにわたり対立関係にあった。間にアリバトス国があるから戦争ができないのであって、隣接していればひどい戦場になっていただろう」


 つまりこの2か国は確執があると言うことですわね。長寿とされるエルフと、これまた長寿の魔物たちです。その確執は溝なんて言えるレベルではないのでしょう。


 少なくとも、他国を巻き込むレベルであることは言えますわ。


「お主がいなければ、まんまとやつらの戦略にのせられていたと言うわけだ。礼を言う、助かった」


「助けられたのはお互い様ですわ」


 私もグロード様がいなければ、復讐はできませんでしたから。お礼を言うのはお互い様なのです。


 しかしエルフの国との確執がここまで大きいだなんて……ラスティカの事を調べるのも一苦労しそうですわ。


「そのことだが、エルフの国を調べるのにいい口実があるぞ」


 いい口実?

 国を調べるには確かに建前やら口実は必要ですけれど、今回はなにかしら……。


 するとグロード様、またパチリと指をならしました。私の目の前に書類が現れ、慌ててそれを受けとります。


「魔法学園編入手続き書……?」


 書類には大きくそう記載されていました。文字通りにとればただの編入手続きのようですが……これが何の口実に?


「エルフの国は魔法が一番栄えている国だ。その魔法学園は世界で屈指の学園……もちろん場所はエルフの国だ。」


 あぁ、なるほど……潜入するにはうってつけですわね。私、学校には通っておりませんでし、ちょうどいいですわ。


 では早速編入手続きを……


「ちょっと待ってよ!」


 今まで珍しく黙っていたライアン様が口を挟みました。というよりかは、慌てているようです。


「ティアがその学園にいくなら、僕も編入する!」


 はぁ!?

 何をいってますのよライアン様は……。


 ライアン様はレイヤード国の一番よい学園に通っているじゃないですか。公務を理由にほとんど行ってませんけど。


「し、しかし……一国の王子が簡単に編入は難しいのでは?」


「平気さ、留学ってことにすればいいし。父上も僕が真面目に学校にいくのを望んでいるしね」


 そこは大丈夫なのですね……。うーん、国王様もお望みなら、仕方ありません。


 まぁ、誰も知り合いのいない敵地に行くよりかは、ライアン様がいてくださる方が心強いですわ。


「それと護衛も必要だ。魔物の国から、一人つきなものを護衛につけさせよう」


 グロード様はそういいますが……闇魔法って、強いのですよね?


 今はたしかに扱いきれておりませんが、きちんと学べばそれなりの敵は倒せそうですけれど……。


「お主は闇魔法の特性を知らんのだろう」


「特性?」


「闇魔法、および光魔法の使い手は、そのすべての魔力を犠牲にしてひとつ願いを叶えられる」


 な、なんですのその何でもありな特性!?


 思わず目が点になると、グロード様は肩をすくめました。


「そう驚くことはない。願いを叶えないものが殆どだ。力を手放したくないからな。初代魔王は……願いとして領土を拡大させた。今の魔物の国の領土の大半は、その願いのお陰でなりたっている。」


 だからこそ、闇魔法使いへのある種の信仰心が、魔物たちには根強く残っている……のですね。


 ここに来るまでに何度かお辞儀されたり崇められたのは、そのためでしたのね……居心地悪くて仕方ありませんでしたが、理由がわかれば納得です。


「そのためか、その願いのために暫し誘拐騒ぎがあってな。そのための護衛だ。まぁ、勇者の生まれ変わりがいるため不要かもしれぬが」


 なるほど……って、誘拐!?

 そんな物騒な事があるなら……あ、でも四六時中私はサリーに命狙われてますし、それに比べたらまだ危機感は薄い……でしょうか?


 うーん、私、自分の頭のネジは外れてると思ってますが、危機管理能力も低くなったのかしら?


 気を引き締めませんと。

 まぁ、もし誘拐されても……ライアン様が倍返ししてくださりますけれど。


「……では、護衛はクロロ殿がいいですわ」


「っえ、おだっぺか!?」


 突然の指名に驚くクロロ殿。フフ、かわいいですわね。


「だって学園は寮生活ですから。クロロ殿と離ればなれになってしまいますわ」


「でも……おだそんなに強くなかよ?」


「いいんですよ、私には頼もしいナイトがおりますから」


 ね? とライアン様に笑いかけると、彼はまるでご主人の前で尻尾をブンブン振る子犬のように、元気よく頷きました。


「もちろんさ!」


「……お主ら、いちゃつくのはそこ辺りにしておけよ」


 ため息をつくグロード様に、全員笑ってしまいました。


 まだラスティカのことも全然わかっていませんが、糸口はあります。


 必ず見つけ出してやりますわよ、ラスティカ。

 そう決意して、一週間後。


 私たちは、学園へと旅立ちました。

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