魔物の国

 本日私、珍しく正装して魔物の国へ来ております。ここまで来るのになんとドラゴンにのってたったの3時間。


 ……えぇ、あのドラゴン便ですわ。ライアン様、私に慣れさせたいのか、それとも時間短縮したいのか……もう乗りたくないのに、とほほ。


 魔物の国の案内としてクロロ殿をつれてきて、三人で現在私は、グロード様のいらっしゃるお屋敷……というか、お城にやって来ていました。


 魔王の城というのでおどろおどろしい、暗い感じかと思いましたが、普通に小綺麗なお城でしたわ。


 廊下に時おりクモの巣や埃がたまっているのは、それを使う魔物たちがいるからだそうで、わざとなんだとクロロ殿が教えてくれました。


 そして赤い廊下を進み、一際大きな扉の前でクロロ殿が止まりました。


 見るからに、王様がいそうな部屋の扉ですわね。


「グロード様~……あれ?」


 クロロ殿が扉を開けて中を確認して、そしてすぐに扉を閉じられました。そして、ため息をこぼされたのです。


 どうしたのかしら、一体……。


「グロード様、いないっぺ。まーた寝坊だべ……」


 ……え、寝坊?

 ライアン様へ目を向けると、彼もあきれたようにため息をついていました。……もしかして、常習犯ですの?


 あの不遜な態度でもの申すグロード様が、寝坊……。

 なんですの、このギャップは!


「起こしにいくだー」


 とことこと駆け出すクロロ殿に続いてやって来たのは、まるで物置のような古い扉の前でした。


 ……まさか、ここにグロード様が?

 明らかに、使用人の部屋よりもひどい扉ですわよこれ……。


「起きるだグロード様ぁ!!」


 バァン!


 クロロ殿、扉を壊さん勢いで入室。続いて私たちも入ります。中は暗くとても狭くて、ベッドがひとつあるだけ。


 唯一ある窓にも分厚いカーテンがされておりますわ。クロロ殿、容赦なくそのカーテンを開けました。


 きらきらと埃が舞う中、ベッドに朝日が差し込みます。それが寝ているグロード様に当たり、彼はとても眩しそうに目を開きました。


「ん……なんだ……」


「なんだじゃないっぺグロード様! 寝坊だべ!」


「……まだ昼前だろう……」


 むくりと起き上がったグロード様は、眠たげにまぶたを擦っております。その姿はまるで子供のようで、あくびさえこぼす始末。


 ……昨日王位継承権を宣言した人と同一人物とは見えませんわ、ほんと……。


 ようやく私たちに気づいたグロード様は、心底嫌そうにライアン様を睨みました。


「……私は昼過ぎに来いと伝えたはずだぞ」


「うん、きいたね」


 え、お約束はお昼過ぎでしたの?

 朝早いと伝えてきたのはライアン様では??


 そう、今日の面談はライアン様越しに伝えられたのです。


 普通は使用人を通してやり取りするのですが、私の魔法の発現がありましたから緊急で昨日別れ際に話をした、と聞きましたが……。


「君は昔から朝が苦手だね」


「わかって朝早くに押し掛けてきたのか……」


「もちろん!」


 ライアン様、まさかの嫌がらせのために早くに来ましたの!? ……といってももうすぐお昼ですけれど!


 この二人、本当に仲が良いのか悪いのか……。あんまり巻き込まないでいただきたいですわ。


 グロード様は大きく伸びをすると寝巻きのまま立ち上がりました。真っ白なローブがよくお似合いですわ。


「お主の性格の悪さをしれば、シェスティアも逃げるかもな」


「ティアはそんなことで逃げたりしないよ、ね、ティア?」


 そこには頷いて差し上げますけれど、突然話題を振らないでもらえますこと!?


 そしてグロード様は早くお着替えをして下さいませ! ローブがはだけて大事なところが見えそうなんですのよ!


「ん……あぁ、すまない」


 私の視線が明後日の方向へ向かったことに首をかしげたグロード様。ようやく気づかれたようで指をパチリとならしました。


 するとあら不思議、ローブが一瞬にして黒い正装へと早変わり。って、正装もローブですのね……さすが魔王って感じですわね。


 でも私、自分が魔王になっても黒いドレスばかり来ませんわよ。やっぱりおしゃれはしたいですから。


「さて、待たせたな。それでは昨日の話の続きをしよう」


 ……え、ここでですか?

 あの立派な部屋に移動は……


 パチンッ


 指パッチンをされたらなんといつのまにか大きな広場に飛ばされていました。


 ここは……中庭のようですわね。


「ここならば誰も来ない。話もしやすいだろう」


 グロード様は噴水に腰かけて空を眺めておりました。私もつられて上を見ると、ドラゴンを飛び交い、様々な羽をもつ人種が楽しそうに話ながら飛んでいるのが見えました。


 これが……魔物の国なのですね。


「魔物と言うだけで人間は意味嫌うが、中身は変わらない。皆優しいものたちばかりだ」


 グロード様は噴水の水に手を浸けられました。すると水がまるで生き物のように動いて噴水から離れると、椅子の形をとりました。


「座れ、その方が話しやすいだろう?」


 お言葉に甘えて座ってみることにしました。なぜか濡れないのは不思議ですわね。魔法ってすごいですわ!


 さて、ようやく話し合いの場になったわけですが。私は聞きたいことが山ほどありますのよ!


 王位継承権の事

 闇魔法の事

 魔物の国の事……


 でもそれよりも何より聞きたいことがありますの。


「エルフの国と、魔物の国……両国の関係についてお伺いいたしますわ」


 私のこの質問に、グロード様の顔が険しく変わりました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る