目覚め
何もかもが真っ黒に塗りつぶされたようだった。
一人ポツリと、暗い空間に立っていて……。何もないそこで、私はずいぶんと冷静になっていました。
さっきまで、我を忘れそうなくらいの憎悪にかられていたというのに。
叫び出しそうなくらいの憎しみが喉の奥からでかかっていたのに。
いま自然と収まって、状況を把握しようとしていますの。
といっても、どこもかしこも暗すぎて、状況なんてわかりませんけれど。
「……ア……」
そんなときです、頭上から、声が聞こえました。
これは、誰の声でしょうか……?
「ティ、ア……がいだ、目を……」
あぁ、聞き覚えのある声です。でも、誰だか思い出せない。
とても、とても大切な人のはずなのに……。
「ティア、お願いだ……目を覚ましてくれっ!!」
瞬間、すべてを思い出しました。
この声は……ライアン様だわ!
私ったら、なんで忘れてしまったのかしら!
こんなにも、愛している人なのに!
途端に暗闇が開けました。私が目を覚ましたからですわ。
「ティアッ!! あぁ、よかった……」
いまにも泣きそうなライアン様が、私の目が開いたことを確認すると、ぎゅっと抱き締めてくださりました。
私は一体……何があったのでしょうか?
そう、たしかラスティカに殺されそうになって……。
「っ!!」
そう、私は殺されそうになっておりました。いえ、確実に死んでおりますわっ!
だって攻撃を回避する術がなかったのですから。
しかし首筋を触っても、少し切れているだけで首はちゃんと繋がっていました。
一体何が……?
「……え?」
何があったのか確認するため、辺りを見渡して私は絶句しました。
屋敷か……半分えぐれてなくなっているのです。しかも地面も芝生が消しとんで、土が露になっています。
それもすべて、私を中心に半径数mに及んでおこっています。まるで私自身が爆発したみたいな、そんな現象です。
一体、何がありましたの?
「ティア……覚えてないのかい?」
「なにも……なにがあったのですか?」
するとライアン様のお顔が険しくなられました。とても真剣な表情で私の肩を捕まれました。
「とにかく深呼吸して、自分の中に意識を向け見て」
「意識を、ですか?」
一体何をおっしゃっているのか。不思議に思いながら言われた通り、自分に意識を向けてみました。
普段ならばなにも感じないのですが……なんでしょうか……目に見えないエネルギーのようなものが、体をめぐっています。
とても説明しにくいのですが、一番分かりやすく言えば血管に別の何かが血液と一緒に体を巡っているような、そんな感覚ですの。
「自分の中に流れる力がわかったかい?」
「力……?」
「それが魔法だよ」
……魔法?
え? 魔法ってライアン様が使っているあれですの??
な、なんで急に私が使えるようになってますの? そりゃ、使えてみたらなぁ何て思ったことはありますわよ?
ありますけど、今まで使えたことなんて一度もありませんわ!!
「たまにいるんだ、死にそうになって覚醒する人が。今回はそれで救われたんだけど……」
なんでもライアン様いわくラスティカの一撃を受ける直前で、私の体から膨大な魔力が放出され、攻撃を撥ね飛ばしたそうです。
それどころか辺り一帯を爆撃してしまい、その混乱に乗じてラスティカは逃げたようです。
「ラスティカ……逃がしてしまいましたか」
「すぐに彼女について調べよう」
私の復讐は、まだ終わりではありません。ラスティカ……彼女を捕まえて、事の真相をすべて見つけ出さないと。
そう考えていたときです。ライアン様が真剣に私を見つめてきました。
「ティア、悪いけど復讐よりも厄介な問題が出てきてしまったんだ……」
厄介な、問題?
復讐よりも厄介と言うのは、どういう事でしょう。意味がわからず首をかしげてしまいました。
「ティア、普通の人は魔法を1属性しか使えない。僕みたいなのは除いてね」
なんでもライアン様いわく魔法は火、水、土、雷、風の5つの属性別れ、大抵の人はそのどれかを持っているようです。
「ただ……君の魔法は……闇属性、所謂闇魔法だ」
どうやら私はそのどれにも当てはまらない亜種族の中でも、さらに特異とされる属性らしいのです。
でもただ珍しいと言うだけのどこが厄介なのでしょう?
「それで、その……闇属性をもつ人には……」
「そこから先は私が話そう」
どこからともなく、声が降ってきました。この声は……グロード様!?
「久しいな 」
「ぎゃぁ!!」
気づくと私の背後にグロード様がおられました。なんでこの人はいつも私の背後をとりますのよ! 心臓に悪いですわ! 思わずライアン様に抱きついてしまいました。
「よりにもよってお主に闇魔法が現れるとはな。勇者の生まれ変わりよ、これも何かの因縁か?」
「さぁね。とりあえず話を早く済ませてくれ」
あらライアン様、いつもみたいに早く帰らせる雰囲気ではないのですね。ということはグロード様が話さねばならない何かがある、ということですわ。
一体なにが……?
「ふむ、なら結論からいってやろう。シェスティア……」
なぜか今日のグロード様は、普段見るより王の威厳がありました。深い緑の瞳が、私を見下ろします。
「第42代目魔王グロードが、お主に魔物の国、王位継承権が下されたことをここに宣言する。」
……はい?
私はその一言に、目が点になりました。
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