復讐作戦完了3 パラドール家没落
翌日の夕方。
茜色に染まった空を赤で塗りつぶすように燃える街。
ここはパラドール領で一番栄えていた街、ルリアージュ。
えぇ、栄えていた……過去形です。今はもうその影はありません。
だってすべて燃えましたから。
勿論先に住民の避難をさせていますわ。一時的に捕虜と言う形にしていますが、怪我人は一人も出ていません。
なにせライアン様が一人で兵を全員気絶させてしまいましたから。
「魔法の複合でね。精神干渉魔法は結構大変なんだよねぇ」
なんてぼやきながらも街全体の兵士だけを気絶させる神業をやってのけましたわ。
つまり無血占領したわけですわね、ライアン様……。
この人、相変わらず規格外ですわねぇ……。魔法が使えない私でも、それはわかりますわ。
死者が出ることは覚悟していましたが、どうやらその心配はないようです。
「くそっ、離せ!! 私を誰だと思っている!!」
まだ火のついていない大きな屋敷……元々私がすんでいたパラドール君領主の館から、縛られて出てきた二人の人物を見つけました。
キース叔父様とサーラ婦人です。婦人は包帯巻きのまま、引きずられるように外に出されています。かわいそうに、顔はもうぐちゃぐちゃでみる影もありません。
「つれてきたけど、この二人であってる?」
ライアン様がそういうと、私は頷きました。
そして、縛られながらも虚勢を張る哀れなご老人に笑顔を向けました。
「ごきげんようキース叔父様」
「叔父様……?」
私の言葉を理解できなかった叔父様は一瞬固まった後、目を丸くされました。
「まさか……シェスティアなのかっ!?」
「えぇ、あなた方を恨みすぎて、地獄から舞い戻って参りました」
にこやかに笑いかけると、叔父様は途端に震えだしました。ことの重大さに気付いたときの反応は、アーノお兄様と同じですわ。さすが親子ですわね。
「まさか、そんな……っ!」
「まさか? あぁ、死んでると思っておりましたものね」
私は笑顔を張り付けたまま、兵を呼びつけてサーラ婦人を引きずらせました。
「お、おい、妻に何をするっ!」
「お顔だけ焼けてるだなんて、変で可愛そうじゃないですか」
「……まさかっ!? や、やめるんだっ!」
……やめろですって?
私は思わず叔父様の顔面を蹴ってしまいました。治と唾液が地面に飛び散り、歯が抜けたようです。
騎士団で鍛えてもらっていてよかったですわ。
「指図しないでもらえます? まだご自分の立場がわかっていないようですね」
「頼む……っ、妻だけはっ!!」
えぇ、知ってますわ。あなたはとても愛妻家ですものね。こんな醜い顔になっても、サーラ婦人を手放さなかったのがその証拠。
だからまず、あなたの大切なものを奪ってやりますわ。
「サーラ婦人を火炙りにしてちょうだい 」
「やめてくれぇえ!!」
叔父様の断末魔を無視して婦人は楔に繋がれ、その体に油をかけられ、火を放たれました。
本当はじわじわ焼いてやりたかったのですが、サーラ婦人はもう十分顔を焼いておりますから、そろそろ楽にしてあげてもよくてよ。
サーラ婦人の燃える姿を、ただ眺めていることしかできない叔父様はボロボロ泣き出しました。
「たのむ、たのむ……妻を助けてくれ……っ、何でも話すからっ」
「では、私の両親を殺したのは誰か、はっきりお伝えくださいな」
私がそう伝えると、彼は顔をあげました。さぁ、答えるのです。自分がやったと。
そうすればサーラ婦人を焼いている炎をもっと燃やして、楽にして差し上げますから。
「エ、ルフ……だ……」
「……は?」
「とあるエルフに、話を持ちかけられたんだっ!」
叔父様はそこから、捲し立てるようにこう話しました。
領主になりたかった叔父様の前に、フードを被った女性が現れたそうです。彼女は自分をエルフと名乗り、こういったそうです。
“エルフの国から馬車を買いなさい。それですべてうまくいく”
エルフの国とは、アリバトス国の東に位置する大陸です。大きな大陸で、レイヤード国とも国境があるほどです。
そんな国から馬車を買ってきた叔父様は、そのままその馬車に私たちをのせました。
そして事故になったのです。
「エルフの国の馬車は魔法で簡単に車輪が外れるらしい。だが魔法の発展していないアリバトス国なら魔法を使っても証拠は残らない、そういわれた」
叔父様はうなだれるようにそういいました。
魔法で、馬車の車輪をはずす……?
私は違和感を覚えました。
たしかにそのような技術はレイヤード国にも存在します。しかし安全面を考慮して、ある一定の距離が空いてしまうと発動しないようになっています。
つまり例えば崖の上とか、そういったところから隠れて魔法を発動しても、馬車の車輪は外れないのです。
魔法が一番発展しているエルフの国なら、なおさらそういった安全面は考慮されているはず。
ではいったい、誰が魔法を発動させられたのか……。
その疑問を解いた瞬間、すべてが繋がりました。
そう……犯人は……
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