復讐ののろしをあげよ

 サーラ婦人の肌を焼いて数日後。

 私とライアン様は作戦会議をしていました。


 といっても、たいした作戦はありません。

 単にパラドール領の残りの領地を攻め落とすだけですわ。


 なぜ今のタイミングなのかと言いますと、ちまちま占領してしまうと、援軍を呼ばれる可能性があるからです。


 パラドール領は小さいといえどもアリバトス国の領土。アリバトス国だってさすがに援軍要請は無視できませんわ。


 そうなれば戦いは泥沼、無駄な犠牲を出してしまいます。


 そのため今回は残り3分の2となった領地を一気に攻め入り、キースおじさまの首をとる訳ですが。


 本来ですとどう攻めるか、とかそういう話になるのですが。ライアン様の戦力をもってすれば圧勝は確実。


 さらにグロード様のお助けにより、魔物の国となったザバードに兵をこっそり入れてくれるそう。


 これのお陰で奇襲がかけられますわ。

 さて、問題はいつ奇襲するか、なのですが……。


「明日じゃダメかな?」


 まるでピクニックにいく感覚で戦争を仕掛けようとするライアン様。


「早い方がいいよ。そうすれば早くティアと一緒になれるから」


 彼はそう言ってにこやかに笑います。全く、嬉しいお言葉ですわ。


「そうですわね……では明日にしましょう」


 そんな彼につられてしまう私も、またさらっといっちゃいます。


 だって早く復讐したいんですもの。キース叔父様への復讐はもう決まってますの。そのためには領地を完全に攻め落とす必要がありますわ。


 あの人の大切なものを奪って、粉々にしてやります。


 というわけでライアン様、兵にザバードまで進軍するよう指示を出しました。これでもう、後には引けません。


「1日位で攻め落とすから、ティアは連絡があったらこっちに来てね。」


「ありがとうございますわ。でも、叔父様の首を切らないでくださいよ?」


「わかってるよ、僕は彼に感謝してるからね。お陰でティアに会えたから」


 彼はそう言ってにこやかに笑うと私の髪を一房とって口付けました。


 そう、そもそも叔父様が私を追放さえしなければ、領地を奪われることなんてなかったんです。


 自業自得、こんな悪魔を野に放った責任はとりませんと。


 コンコン


 そんな話をしていたときです。部屋に控えめなノック音が響きました。サリーに扉を開けさせると、クロロ殿がひょっこり顔を出しておりました。


「二人とも、此処にいただー」


「あら、クロロ殿どうかされましたか?」


 またライアン様に遊んでほしいとせがみに来たのでしょうか? 二人で顔を見合わせるとクロロ殿はとことことこちらにやって来ました。


 いつも通りライアン様のお膝の上に座らせてあげると、彼はいつもと違い、少し元気がなく笑いました。


「おだ、そろそろ帰らないといけないっぺか?」


 耳をペタりと垂らした彼は、俯いてそういいました。


 そう、彼はグロード様との契約で一時的にお借りしている状態。パラドール領の占領がすんでしまえば、契約は終了してしまいます。


 クロロ殿は幼いながらもよく見ている。きっとそろそろ作戦が終わることを理解しているのですわ。


「クロロはどうしたい?」


 ライアン様はクロロ殿の頭を撫でてそう訪ねると、彼はぎゅっと、ライアン様に抱きつきました。


「おだ……此処にいたいだ……っ。おだ二人とも大好きだっぺ、ずっと一緒にいたいけろ……」


 クロロ殿の心からの声に、私も胸が熱くなりました。叶うことなら、ずっとクロロ殿が此処にいればいいと、私も思いますから。


 復讐で荒んだ心を癒してくれていたのは、紛れもなく彼でした。


 何かあったかは聞かずに、いつもいつも笑顔で出迎えてくれて、時おり振り回されそうな位やんちゃな時もあれば、子供らしく甘えてくる。


 そんな彼の存在は、私にとってとても大きなものになりました。


 だからこそ、手放したくはなないのです。


「グロード様に、契約更新のお話をしませんとね」


「ほんとっぺか!?」


「魔王に貸しを作るのは嫌だけど、こればかりは仕方ないね」


 ライアン様もクロロ殿を実の弟のように可愛がっていますから、今回ばかりは魔王だろうと関係なく折れるようですわね。


 それほど彼も、クロロ殿が大切なのです。


「落ち着いたら、皆でピクニックでもいきましょう」


「やったっぺー!」


「お弁当がいくつあっても足りないね」


 そんな楽しい未来の話に花を咲かせます。おかしいですわよね、復讐で人を殺し、その娘に恨まれながらも幸せを謳歌しようとするのですから。


 でも残念、私はどうやら根っからの悪党のようです。


 恨まれようが、憎まれようが、関係ない。


 私は私の幸せを手に入れる。

 そのためならば、邪魔者は排除いたします。


 まぁ、もうじきすべての邪魔者は消し去られますけれど。


 このときの私はそう楽観視していました。

 しかしこの後、そう簡単に幸せが訪れないことを自覚するのです。


 そう、まるで神様が私への罰を下すかのように……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る