復讐作戦完了2

 サーラ婦人に化粧品を売り付けて3ヶ月。

 私は書斎で書類を眺めておりました。


「あれ、ティア。今日は商談の日じゃなかったっけ?」


 書斎に様子を見に来たライアン様が、まだ書斎にいる私に目を丸くされております。商談、とはもちろんサーラ婦人相手のものです。


「もう十分毒は巻きましたので、そろそろ終わらせようと思いまして」


「あぁ、なるほど……目の前で見られないのが残念だね」


 ライアン様はそういうとソファーに座られたので、私も休憩をしようと立ち上がりました。ベルをならし、サリーを呼び出します。


「お茶の用意をお願い」


「……かしこまりました」


 さすがのサリーも、ライアン様の前ではナイフを振り回すことはできないので、おとなしく言うことを聞いてくれますわ。まぁお茶に毒が入ることは日常茶飯事なので、常に毒味させてますけど。


 しかしそれも一概には信用できませんわ。毒に体を慣らされてしまっては、一口くらいでは平気になるそうですから。


 なのでサリーの毒味はいつもお腹一杯させていますのよ。


「見られないのが残念なのと、みたくない気持ちの半々ですわね」


 今回の作戦は、我ながらかなりグロッキーですから。


 作戦のトリガーはサーラ婦人に渡した化粧水。


 あれには確かに10倍の量のエキスと魔法がかけられています。問題はその魔法です。


 実は従来品で魔法の規定量ギリギリでしたの。

 つまりサーラ婦人に渡したものは、規定値を越えて魔法が入ったもの。


 そんなものを肌に使い続ければどうなるか。

 最初のうちは肌細胞が活性化されてお肌はきれいになっていきます。


 しかしきれいになった肌細胞にさらに化粧水を使い続ければ、魔法が暴走して、肌の細胞が著しく弱く脆くなります。


 そんな状態になったら気づかれてしまいますが、10倍の美容エキスが肌のみためは補うため自覚症状はありません。つまりあの化粧品は毒でもありますが、肌の状態をキープする薬でもありました。


 そしてサーラ婦人は、自覚症状がないまま毒物を接種し続けた。


 今頃肌の中はボロボロでしょう。このまま使い続けさせてもよろしいのですが、それでは面白くありません。


 さて、止めの一撃です。


 ボロボロの脆く弱い肌は、刺激にとても弱い。

 そんな状態で、刺激の強いものを使ったら……?


 例えば……メイク品とか。


 本来でしたら今日、私はサーラ婦人に化粧水を届ける予定でした。しかしこちらの都合で商談を一時中断辞いたしました。


 毒でもあり薬でもあった化粧品がなくなった状態でメイク品を使えばどうなるか……。


 マウスで実験しましたが、とても悲惨でした。肌は刺激に驚いたどころか、メイク品の成分と魔法が化学反応を起こして、肌が焼き爛れたのです。


 毛で覆われたマウスでそうなったのです。肌の薄い人間が使えば……


“ぎゃぁああああああっ!!”


 あぁ、悲鳴が聞こえないのが残念。

 今頃、大変なことになっているでしょうね。


 肌は焼き爛れ、色が黒く変わり、酷いときは爛れ落ちる。


 美を一番大切にしていた人には、信じられない結末でしょう。


 ざまぁありませんわ。

 勿論これで終わりではありません。


 彼女はこれから治療をしながらも、私の商談を続けるでしょう。効果は確かにあるものですから。


 そこで私はまた毒を巻き続ける。今度は中に本物の毒、硫酸を入れて。魔法で毒性をかなり弱め、肌にしか効かないようにしたものを用意しましたの。


 案の定数日後には至急に化粧品がほしいと言う連絡が来ました。


 準備は万端。屋敷へ向かうと、顔中包帯で巻いた婦人がベッドに横たわっていました。


 ……あぁ、ダメよ、笑ってわ。

 笑いをこらえるのって、こんなに大変なのね。


「何てお痛わしい……」


 心にもないことをいって、私は化粧水を婦人の前に差し出しました。彼女は藁にも縋るように化粧水を引ったくると、私の前だと言うのに包帯をとって、その醜く歪んだ顔に化粧品を塗り込みました。


 ジュゥウァアアッ


「ぎゃぁああああああっ!!」


 あらあら、大変。これはお子さまには見せられない惨状ですわ。それにあまりにグロテスクすぎてどんな風に顔が変わったかは、ご想像にお任せしますね。


 とにかく酷い惨状に私は声をあげることなく、静かに言いました。


「何て醜い人」


 痛みに悶絶している彼女の頭から、私は硫酸入りの化粧水をぶっかけてやります。


 髪は溶け落ち、地肌は焼け、辺りに異臭が漂う。


 おっといけない、このままでは殺してしまうわ。

 さて、証拠を片付けましょう。


 空になった瓶とまだ中身のある、婦人の使っていた硫酸入りのものを回収。持ってきていた通常品とすり替える。


 そして叫び声を聞き付けた執事たちにこういいます。


「サーラ婦人がまたメイク品で肌を焼かれました。きっとメイク品が悪いのですわ」


 サーラ婦人はすでに口がやけ爛れてくっついてますから声にはできません。あたふたする執事たちをよそに、この騒ぎに乗じて屋敷を出ました。


 全く無能ばかり。状況把握に私をこの場にとどめないバカ者なんですから。


 まぁ、無能とわかっていたから敵地に乗り込むなんて無謀なことをやったのですけれどね。


 ふふ、あははははっ!

 サーラ婦人の焼け爛れた顔と、断末魔を思い出して思わず笑ってしまいます。


 何て無様なの!

 愉快で楽しくて、たまらない。


 そうよ、皆みんな、不幸になればいいのよ!!


 パラドール家はみんな、呪われてしまえ!


 アーハッハハハハハッ!

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