商売
馬車に揺られてしばらく。
私はまたザバードの街に来ておりました。
一度火の海となった街でしたが、今は復興が進み以前と変わらずの生活をおくれているようです。
それだけではありません。力の強い魔物たちよってインフラが整備され、上下水道が完備されました。
これにより感染症が激減。外に出る人が増えたため忙しさで雇用は増加。あれだけ経済難だった街は見事に回復いたしました。
やはり納めているものの手腕によって街は変わるようです。さすがですわグロード様。
さて、街は潤うと言うことは、お金を使う人増えたと言うこと。
商売に適していますわ!
私はあらかじめ買い取っていた露店の出店権で広場の一番人の多いところで露店を広げます。人気をあげるには、まず買ってもらうこと。
庶民にとっては露店の方が買いやすいはずですわ。
でも来てすぐの、聞いたことのない商人の化粧品なんて、誰も買いませんわ。
というわけで秘密兵器投入です。
「出番ですよクロロ殿。」
「がってんしょうちっぺー!」
クロロ殿はお化粧品を手に持つと、とことこと広場を歩き出します。そして通りかかった女性たちに……
「お化粧品、買ってけろ~」
上目使い&尻尾を振っての愛嬌を見せ、とどめに魅了スキルで女性達のハートを射ぬくのです!
あぁ、あわれな女性たちはハートに矢が刺さっておりますわ。
……相変わらず恐ろしい愛嬌ですわ。
恐らく魅了スキルがなくても購入には至るでしょうね。
あれよあれよとクロロ殿がお客様を引き連れてやってきます。あっという間に露店には行列ができて、商品は売り切れ。
作戦大成功。
かなり良いものを利益度外視で安く提供していますから、これは良い噂になりますわよ。
案の定、数日後からは噂が広がりました。
“すごい高機能の化粧品が安くで手にはいる”
もうここからはすさまじい勢いです。クロロ殿の呼び込みがなくてもお客様が殺到。
毎日毎日なんとかさばきながら繰り返すこと1週間後。
その頃には貴族のご令嬢の方々……の侍女らしい人たちにも購入範囲が広がり、やがて令嬢にも回り始めました。
ふふん、これだけ高機能で良いものですから、一週間で効果は実感できますの!
それだけ早く効果がわかるのも、魔法のお陰ですわね。
そしてさらに1週間後……ようやく獲物がつれましたわ。
「招待状、ですか?」
その日もバタバタと化粧品を売っていた時です。見慣れた執事の方が来てくださりました。
サーラ婦人の専属執事です。
あ、ちなみに私はこれでも変装魔法をかけているので、恐らく気づかないでしょう。
なので堂々と、その招待状を受けとりました。近くで見ていたクロロ殿が何事かと、じっと招待状を眺めております。
「はい、我が主が是非ともティア商人の化粧品を試してみたいとのことでして」
招待状には、お茶会のお招きがありました。
なるほど、あらかじめ店主の私が女性であることはリサーチ済みということですわね。
半年かけて準備した甲斐がありました。こんなチャンス、棒に振るわけにはいかない。
「慎んでお受けいたします」
漸くつれたんだ、逃がすものですか。
私は帰ってから早速、ドレス選びに入りました。
サーラ婦人の好みは清潔感のあり、なおかつ自分より目立たない女性。
自分が一番だと思っておりますから、そりゃ自分より目立つものは置きたくはないですわよね。
今後の取引のためにも、まず第一印象が大切。
ここで失敗すれば、今後取引どころか、会ってもらえない可能性すらある。
それは困りますわ。
久しぶりに着飾りますが、私の表情は晴れません。そうですわ、今から敵地に乗り込んで今すぐに殺したい相手の前で、愛想を振り撒かないと行けないですから。
でも大丈夫です。
最悪私の交渉が失敗しても、クロロ殿の魅了スキルで購入は必須にしますもの。
問題は私がぼろを出さないか、だけですわ。
執事の話では、サーラ婦人はここ最近まで寝込んでいたらしく、やつれたため、お肌を回復させたいとのこと。
……実の息子が無惨に殺され、孫娘も行方不明となれば誰だって塞ぎこみますわよね。
むしろ半年で回復するとは、恐ろしい神経してますわ。さすがパラドール家に嫁ぐだけはあります。
さて、そんな相手にわざわざはいそうですかと商品を渡すわけもありません。
今日はサーラ婦人専用に作った特別製を用意しましたの。
これが復讐のトリガー。
あとはこれをどう使わせるか、というだけ。
お金も入って復讐もできる。一石二鳥のこの作戦。
民衆を使わないだけ、まだ簡単かもしれません。いえ、むしろ私の技量が試されるはず。
今からは仮面を被るのです。
金持ちに媚びへつらう、商人の顔になるのです。
決して、悟られぬように。
さぁ、戦いの始まりです。
なんとしても、復讐を成し遂げてやりますわよ。
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