準備
私はライアン様を書斎に招き入れ、二人で作戦会議をすることになりました。
「次はどうするんだい? 公文を送っているから、半年は僕は兵を動かせないよ」
戦争をしないと送った公文のことですわね。
あれの効力は半年。その間戦争になるような行動はできません。
しかし逆に言えば半年でまた兵を動かせるようになるのです。
「構いませんわ。次のターゲットは、なにかと準備が必要ですから」
領土は攻め込んでしまえば、ライアン様の武力で圧勝できるでしょう。自分の立場を優先していたアーノお兄様は、その立場を地の底まで落として差し上げるため、戦争ごっこをしました。
しかし次の相手はそうはいかない。
何せ地位よりも大切にしているものがある人ですから。
「次のターゲットはサーラ婦人……私の叔母にあたり、アーノお兄様の実母になりますわね。そして、パラドール領の領主補佐のひとり」
「実質三人いる領主の一人な訳か」
ライアン様はソファに座ると、クロロ殿が以前入手していた有権者リストを捲りながら呟きます。ライアン様は一度見た文献は忘れないのですけれど、私の前ではきちんと確認をなさいます。
なんでも本人いわく、私の話を集中して聞きたいから、だそうです。どうにも記憶を探ると回りが見えなくなるのだとか。
「で、次はどうするの?」
「サーラ婦人は何よりも“美”を重んじる人ですわ。故にご本人も、とても美しい方ですわ」
いつもお手入れをかかさなかった婦人を、私はきれいだと思っておりました。そのきれいな器に、どす黒い本性を隠しているとも知らずに。
「ですので彼女の美をズタズタにして差し上げますの」
そのためには必要なものがたくさんありますけれど……。
「そのために商人になりたいのですが」
「……え?」
あまりにも突拍子のないことをいったのでライアン様は目が点になりました。
そりゃ、そうですわよね。
「ですので、商人に……」
「いや、聞こえてたよ? でもなんで??」
「お化粧品を売るからですわ」
そう、美には付き物のアイテムであるお化粧品!
なかでもスキンケア品は毎日のお手入れにかかせないマストアイテム!
……なんて、ライアン様は知りませんわよね。
「これから行うのは美を売りつつ美を破壊する、支離滅裂な作戦ですわ!」
今回は化粧品を使った復讐ですわ。しかしサーラ婦人は仮にも領主代理の立場。そんな人の手にぽっと出の化粧品を試さすなんて不可能。
……なんですけれど、サーラ婦人は新しいもの好き。
常に新商品はチェックしております。また、良いものはなんでも使いたい思考の持ち主。
つまりぽっと出の化粧品でも、評判がよければ使ってくれる可能性が高い。
まぁ、使ってもらえるまで評価をあげ続けるのですれど。
「そのために魔法が使える研究員を何人かお借りしたいのです」
「魔法が使える? それならいくらでもいるけど……」
パラドール領では魔法は普及していない。魔法のかかった魔法薬などの流通はあれど、かなり高価になりますわ。
今回は魔法で効力をあげた化粧品を開発しますのよ!
そしてうまくいったら、私も使いたいですし。
ふふふ、一石二鳥ですわ。
なんて一人で笑っていたら、ライアン様は会話においてけぼりで軽く方をすくめました。
「とにかくターゲットの復讐は君に任せるよ。必要になったら言って、いくらでも兵を出すから」
ライアン様は裏方に徹することにしたようです。たしかに今回の作戦は、私主体で行うものですからその方が助かります。
さて、そうと決まれば準備です!
といって、化粧品の開発がすぐに成功するはずもなく……。
いろんなものを作っては私はもちろん、サリーや侍女に試してもらってを繰り返し、製作期間に6ヶ月……。
ようやく良いものができました!
名付けてティアドール!
シミ、そばかす対応はもちろん美白効果もバッチリ。魔法でお肌の細胞を促進して潤い確保もしている優れもの。
うんうん、良いものができましたわ!
これなら、使ってもらえればその良さをわかってもらえますわ。
しかし、ここからが課題です。
そもそも、無名の商人が作った化粧品なんて、誰も買いませんの。
えぇ、普通は、買いません。
それが普通です。
お肌に使うものですから、皆様そのあたり敏感ですのよ。
何かあっては困りますから。
でも、それは普通だったらの話です。
この私が、普通のやり方をするはずもない。
そろそろザバードも落ち着いてきた頃ですし商売でもいたしましょう。
内戦からグロード様率いる魔物の国に攻め込まれ、領土を奪われた街でしたが、今は落ち着いて皆様普通に暮らしているそうです。
もともと貿易が盛んな街でしたので、グロード様はザバードの国境の警備は緩めにしているそうです。
キース叔父様もさすがに魔王がいる国を簡単には攻められず、今だにパラドール領からの兵はなし。
つまり今、ザバードは完全に魔物の国となったのです。ちなみにすんでるのは大半が人間、あと亜人も増えてきた見たいですのよ。
復興途中の街でどう人気を出すか。
商人としての手腕が問われますのよ!
……というわけで、奥の手を使います。
「クロロ殿~、一緒にいきましょう」
そう、秘密兵器、クロロ殿。
その可愛さ1000%フル活用いたしますのよ!
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