復讐完了1

 私は今、3年ぶりにパラドール領へやって来ました。しかし、その風景は一変しています。3年もあればなにか変わりますが、さすがに焼け野原になるくらい変わることは、滅多にありませんわね?


 亡命者の私ですら、簡単に入ってしまうほど、国境は機能しておりませんでした。そりゃそうですわ、魔物の国が攻めてきたのですから。


 今回の作戦は、簡単にまとめればこうでした。


 まず小麦、砂糖を買い占める

 ↓

 嘘の情報と共同訓練をみせて民衆の不安を煽る

 ↓

 購買運動が進み、それにともないアーノ商店にのみ商品を横流し。後日に他商店にて破格の値段で取引し、値を暴落させる

 ↓

 小麦と砂糖の大暴落で損失を出したアーノお兄様は、戦争が始まると信じてなけなしの血税で金を集めて兵を整える

 ↓

 しかしそれはすべて嘘だったとわかり、激怒した民が暴徒化

 ↓

 内戦に持ち込み軍事が機能しなくなったところを、グロード様率いる魔物の国が攻め落とす


 全く、ここまで計画通りにいってとても拍子抜けでした。お兄様はもう少し賢い方かと思いましたが、想像以上のバカです。


 そして、そのバカにボロ屋を与えられて生き伸びたと言うことが、ひどく恥ずかしい。


 ライアン様は公文を出した手前、魔王との一時的な共闘を知られては不味いことになります。そのため私は1人、護衛をつけて久しぶりにパラドール領へやって来た次第。


「来たか」


 業火に焼かれた家々の、その1番大きな火を受けた屋敷の前で、グロード様と合流いたしました。


 そこには、何人もの使用人が縄につき、そして1番立派な服装をしたものは殴られたのか、すでにボロボロな状態で縛られ、地面に這いつくばっていました。


 アーノお兄様です。あらあら、ずいぶんたくましく成長されておりますこと。


「グロード様、ごきげんよう」


「あぁ、言われた通り、民の方には被害がでないよう調整した。これでよかったのか?」


「えぇ、これから遣いますので」


 グロード様にはザバードの領土を差し上げる変わりに、この後のことを任せていただくことになりましたの。


 私はまず、這いつくばっているアーノお兄様のところへ参りました。彼は力なく頭をあげると、私を睨み付けました。


 大方魔王の伴侶と勘違いしたのでしょう。まぁ、こんなところに令嬢が来るなんて、普通に考えればそれくらいしか考えられませんものね。


「よくも、よくも街を……っ!」


「正義面はよしてくださります? 血税で民を苦しめていたのは貴方でしょう?」


「ぐはっ」


 アーノお兄様のその睨む態度があまりに気にくわなかったため、私はそのご尊顔を踏みつけてやりました。


 あら嫌だわ、お下着が見えてしまいます。今日はフリルいっぱいのドレスを着てよかったですわ。


「私腹を肥やし、民のことを考えていないからこうなるのです。本当に、昔から貴方は決断力の足りない人でしたね」


「ち、違う……俺は……っ」


「あぁ、いいんですのよ?その決断力のなさで私は救われたのですから」


 アーノお兄様は私を殺せなかった。

 だからボロ屋を与えられて、そこで勝手に死んでほしかったのでしょう。


 そのお陰で私はライアン様と出会い、救われた。ある意味、感謝しなければ。


 その愚かさに。


「一体……なんの話、を……」


「国境付近のボロ屋。そういえば、心当たりがあるのでは?」


 私はにこやかにいいながら、顔面を踏みつけていた足を下ろしました。いい加減、汚い血がつくのは嫌ですから。


 漸く私が誰が気づいたアーノお兄様は、わなわな震え始めました。目を見開いて、まるで幽霊でも見るような視線を向けます。


 まぁ、失礼ですわね。私、ちゃんと生きておりますのに。そんな目で見られては、傷ついてしまいます。


「そんな……まさか……ティア、なのか?」


「馴れ馴れしく愛称で呼ばないでくださりませ。」


 今すぐにその口を縫い付けてやりたくなりましたが、それはやめておきましょう。だって、悲鳴が聞けなくなりますもの。


「わ、悪かった、本当に、本当に悪かった!! 許してくれぇ……」


 アーノお兄様が事の重大さに漸く気づいたのか、その額を地面に擦り付けて許しを乞うてきました。


 しかし、もうなにもかも遅いのです。

 さぁ、最後の復讐です。


 私は兵にアーノお兄様を広間まで引っ張りつれてくると、杭に縛り付けるように言いました。


 ギリギリ足がつくくらいにして、決してほどけないように鎖で縛り、そして……


「ぎゃぁああああっ!!」


 その手足を切り落としてやりました。もちろん、ちゃんと魔法で止血して、死なないようにします。


 そして声を張り上げてこういいます。


「今まで苦しめられてきた民たちよ。よく頑張りました。私は皆様のその忍耐を称賛いたします。しかし……」


 捕虜となった民たちを集めて、私はにこやかにこういいました。


「皆様助かりたいですわよね? そのための試験を開始します。簡単ですわ、この愚か者に石をなげればいいのです。こうやって!!」


 私は手頃な石を、くくりつけられているアーノお兄様に投げつけました。


 さぁ、復讐の再開ですわよ!!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る