復讐作戦開始1

 翌日の朝早く。ライアン様直属の騎士団はあわただしく動いておりました。


 それもそのはず。早朝にあるお達しが来たからですわ。


“魔物の国との共同訓練を行う”


 こんなお達し今までなかったため、騎士団はてんやわんや。まぁ恐らく、魔物の国も同じことになってるでしょう。


 レイヤード国と魔物の国は敵対しているわけではないですが、だからといって友好な関係と言うわけでもありません。


 魔物の国は言わば中立国なのです。

 ですのでこちらの共同訓練は、なんの条約違反でもありません。


 まぁ、前代未聞なことには、変わりございませんけれど。


「ただいまっぺー」


 そんな慌ただしい様子もお昼には落ち着いて、騎士団は共同訓練にいって静かになった頃。


 お遣いを頼んでいたクロロ殿が荷車を戻ってきましたわ。その後ろからたくさんの荷馬車がやって来ます。


 クロロ殿はとことこ近づいてきますので、頭を撫でて差し上げると、にへらと笑いました。


 あぁ、可愛い。可愛いは正義ですわ。


「クロロ殿、お疲れさまですわ」


「ちゃんと言われてたもの買ってきたっぺ!」


 クロロ殿は後ろのに馬車を指差します。さすがクロロ殿、愛嬌と魅了スキルは相変わらず最強ですわね。


「ありがとうございますわ、疲れたでしょうからお休みください。お風呂をいれておりますわ」


「お風呂!! お風呂っぺ~!」


 クロロ殿は目をキラキラさせながら浴室へ走っていきました。長旅で疲れた汗を流してくださるといいですけれど。


 さて、私も私の仕事をしましょう。

 荷馬車と共にやって来た商人に荷物を運ばせます。クロロ殿の魅了効果もあってか、それとも私の公務スマイルの影響か、皆様嬉しそうに働いてくれますのよ。


 ……魅了スキル、恐ろしい。


 今回買ったのは、大量の小麦と砂糖。それもザバード中の在庫を枯らすレベルでの買い占めです。本来そのような買い占め運動、商人はいやがりますが……クロロ殿の魅了スキルでOKをだしてもらったのです。


 こんなことをしてなんの効果があるのか。一つ一つを見ていても、きっと気づかれないでしょうねアーノお兄様。


 財政難でも権力を維持できているのは、アーノお兄様自身も商いをしているからですの。まぁ、名前だけを貸している状態ですけれど。


 今回の買い占めは、貴族の娯楽かなにかだろう、くらいしか思われていないはず。


 ただの買い占めなんて、なんの意味もない。

 でもこれに、意味を持たせれば……?


 例えばそうですねぇ……近いうちに戦争になるかもしれない。物資が足りなくなれば、小麦粉はなくなるかもしれない。


 そんな噂が、街に流れたら?


 きっと人々はこぞって小麦粉を買いに来るでしょう。砂糖は高級品のため、貴族が買おうとしますわ。


 でももう遅い。

 だって買い占めてしまいましたから。


 商人たちは一世一代の購買運動に、躍起になって小麦粉と砂糖を探すでしょうね。


 勿論、アーノお兄さんも。


 でもそんな状況、うまく作れませんわよねぇ? そう、例えば他国のバカな令嬢が口を滑らさない限り……。


「皆様お手伝いしてくださりましたし、特別に教えますわ。実はライアン様が近々国を攻めますの。だから今のうちに、小麦を買い占めましたわ。」


 あらやだ、私ったら商人の方々に口を滑らせてしまいましたわ。


 もちろんこれだけでは、令嬢の勘違いかもしれない、と思われるでしょう。


 でも彼らは帰りに見るでしょう。


 中立国の魔物の国とレイヤード国の騎士達が共同訓練をしている現場を。


 わざわざ商人が通るルートでやるようにいったのです。さぁ、どんな光景に見えるでしょう。


 ただの令嬢の私の言葉に、重みと事実が加わります。実際共同訓練は行われているものですから。


 あぁ、ちなみに。魔物の国が中立国なのは建前上で条約上は中立国ではありません。ですので仮に戦争になっても条約違反にはならないのです。


 そんな状態で帰った商人さんたちは、我先に在庫の確保だったりを行おうとするでしょうね。そして大きな動きは、やがて民衆にばれますわ。


“レイヤード国と魔物の国が攻めてくる”


 さてそんな噂が流れれば、当然領主代理のアーノお兄様は動くしかなくなりますの。


 兵を集め、守りを固め、備える。


 それらすべてにお金が必要ですわ。

 しかし財政難にまで陥っている街で、そんな大きなお金はない。


 そこで助け船をだして差し上げますのよ。


 そう……この大量の在庫を使ってね。


 私はその日のうちにレイヤード家お抱えの商人たちを呼び寄せ、こういいました。


「今からこっそり、内密でアーノ商会に小麦と砂糖を売ってください。くれぐれも他の商会に売らず、売値は通常の3倍吹っ掛けてください」


 3倍吹っ掛けたところで買いますわ。なにせ購買運動が進んでいるなかです、その後4倍、5倍と値をあげたところで売れますから。


 しかし、作戦はこれからですわ。


「そして2日後に他の商人に通常以下の価格で売ってください。ただし条件で定価で売ることを約束させて、これで小麦と砂糖の値を暴落させますわ」


 資金と言うのは、時にしてその価値が下がることがあります。需要供給のバランスが片寄ったときです。


 この戦争ごっこ作戦は、言わばそのバランスを操る作戦。


 通常の3倍の値で買った小麦と砂糖が、わずか2日で暴落したら……?


 フフフ、楽しいことになりますわよ。

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