食事

 カチャカチャと、食器が擦れる音がする中……


 私とライアン様は唖然として食事が止まっておりました。


 その理由は……


「おかわりっぺー!!」


 今日同席している、魔物の国出身のクロロ殿。可愛く愛嬌があり、尚且つ仕事もできる優秀な子ですけれど……。


 あの、食べすぎでは?

 フルコースをもう5周しておりますけど、え、まだ食べます?? 胃袋底無しですの?


 食費の心配はありませんが、そのあまりの食いっぷりに、私もライアン様も圧倒されるばかり。


 獣人ってこんなに食べますの?

 それとも、クロロ殿が特殊なだけですの?


 な、謎ですわ……


 でも……美味しそうにご飯を頬張る姿は可愛くて、ついお腹一杯食べさせてあげたくなるのが不思議ですわ。


 こうして10人分を平らげなクロロ殿をお風呂にいれている間に、私とライアン様は作戦会議を始めますの。


 せっかくクロロ殿が持ってきた情報、使わないわけにはいきませんもの。


 それに、とても有益な情報がありましたし。


「それで、作戦はどうするんだいティア。僕は誰の首をおとせばいい?」


 書斎にはいるなり、ソファに座ってくつろぎながら物騒なことを言うライアン様。くつろいで言う台詞ではありませんわね、ほんと。


「落とす前にやることがたくさんありますのよ」


 私はにこやかにそういいながら、彼にクロロ殿が持ってきた資料を手渡しました。


「ライアン様は国境付近の街を誰が納めているかご存じですか?」


「ん? そりゃ、領主のキースだろ」


 私が小さく首を左右に振ると、彼は首をかしげました。


 たしかにパラドール領はキース叔父様に奪われてしまいましたが、その実態は彼一人が統治しているわけではない、というもの。


 これは代々受け継がれている、パラドール領の伝統的な統治方法で、領主とその補佐2名の計3名で領土を3等分して統治いたします。


 簡単に言えば、領主が三人いるようなものです。


 その説明をすると、彼はさらに首を捻りました。


「それなら、ティアのお父上がなくなった以上補佐も変わっているはずだよね」


「いいえ、それはあり得ませんの」


 本来領主が変われば、領主推薦の補佐2名が後がまにつきます。そしてその補佐2名は……お父様が失くなられた後でも変わっていません。


 変える必要がないからです。


「国境付近に位置するザバードと言う街には、アーノお兄様……キース叔父様の実子が既に補佐をしておりましたから」


 私を助けてくれず、ボロ屋に追いやった人物。


 今でも、あの時のことは鮮明に覚えている。


 私に同情する目を向けながら、父親に歯向かえずに黙っていただけの腰抜け。あの目を私は忘れない。


 自分に力があると過信し、親の力で事業を広げ、何かあれば父親に助けてもらう。


 内政に携わるよくになってわかりましたが、アーノお兄様もまた、政が苦手な人ですわ。


 お父様も、実の弟であるキース叔父様から頼まれて渋々補佐にしておりましたが、その腕前は知れたもののようです。


 クロロ殿が持ってきてくれた有権者リストの中には、アーノお兄様がまだ補佐として存命なことが記されています


 しかも財政状況まで調べてくださっておりますわ。


 スゴいですわ、お陰でザバードは財政難にまでなっていることがわかりましたのよ。


 これを利用しない手はありません。


 さて、復讐方法は考え付きました。

 あとは実行に移すだけですが……それにはグロード様のお力も借りなければいけませんね。


「いやだよ!!」


 作戦を説明しましたが、案の定ライアン様は嫌がりました。そりゃそうですわよね……。


「私たちだけでは“インパクト”にかけてしまいますのよ!」


「で、でも……」


「私のためならなんだってしてくださるのでしょう? だからお願い致しますわ」


 ライアン様の手をとり、必死にお願いすること1時間。最後はライアン様が根負けする形でおれてくださりました。


 ふふ、なんやかんや優しい人ですからお願いすればこっちのものですわ!


 さて、そうと決まれば早速グロード様にお手紙をかいてっと。


「騎士団の方々にご連絡お願い致しますわ」


「全く……前代未聞な作戦だね。面白いからいいけど」


 あきれられるライアン様に、私はフフフと笑いました。たしかに前代未聞ですわね。


 だって今から、戦争を起こすのですから。


 この作戦の名は「戦争ごっこ」

 私の作戦に狂いはありません。


 頭の鈍い息子を持ったこと、精々後悔するといいわキース叔父様。


「お風呂上がったっぺ~ 」


 不適な笑みを浮かべていたら、クロロ殿が帰ってきましたわ。いけません、お子さまにこのようなものを見せるわけには。


 いつもの公務スマイルで出迎えるとクロロ殿はとことこかけてきて、座っていたライアン様のお膝に座りました。


「ライアン兄遊んでけろー」


「なんだクロロ、まだ遊び足りないのか?」


 ……私は知っています。この二人の遊びが、遊びではないことを。


 ライアン様は勿論、なんとクロロ殿もかなりの怪力の持ち主。そんな二人が“遊ぶ”と地形すら変わってしまいますわ。


 軽く鬼ごっこしてて木が2-3本折れるなんて、あり得ませんわよ?


「遊ぶのはお願いを聞いてからにしてくださいませ」


 私もとなりに座ると、クロロ殿は両手を広げました。私が手をとると、今度は私のお膝の上に座られました。


「お願いって、なんだっぺ?」


 私はにこやかにこういいました。


「ちょっとお使いを頼まれてほしいの」


 そう……今回の戦争ごっこ作戦においての重要人物は彼なのです。


 うまく働いてもらいますわよ、クロロ殿。大丈夫、成功したらたくさん遊ばせてあげますからね。

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