クロロ
は、半日で領主は勿論、有権者のリストアップまで?
私は渡された資料に目を通しましたが……領主の名前はキース叔父様になっておりましたし、間違いはありません。
「いったいどうやって……?」
とても一人でこなせられる情報量ではありませんわ。ましてや、こんな子供に……
色々考えてしまいますが、その前に……
バァン!
「ティア!」
はい、ライアン様ご到着ですわ。
次からクロロ様を判別できるよう、魔法を組み変えていただきませんと。
「あ……クロロか。お帰り」
「ただいまだー!」
あまりの早い帰宅に、ライアン様も任務失敗と思っているでしょう。私は無言でライアン様にクロロ殿の成果を見せると、目を丸くされておりました。
「いったいどうやってこんな情報を?」
確かに、情報の出所はしっかり調べないと、虚偽が混ざることがありますわ。二人してクロロ殿に目を向けると、彼はサッシを越えて部屋に入ってきたところでした。
「おだの友達とば集めてきたっぺ」
「お友だち?」
「そだっぺ! みんな、来てけろー!」
ピーと彼が指笛を吹くと、たちまち庭からなにかが飛び出してきました。
犬です。それも、一匹だけではありません……え、何匹いますのこれ!?
「おだの友達だっぺ!」
集められた犬は軽く20匹くらいいそうです。これ全部が、クロロ殿のご友人……ですか。彼は狼の獣人ですので……犬とも会話できるのかもしれませんね。
見たところ毛並みのいい犬もいらっしゃいますし、すべてがすべて野良犬、というわけでもなさそうです。各自の役割で情報収集しているのかもしれませんわ。
「でも、国境はどうやって越えたんだ?」
クロロさんの頭を撫でつつも不思議そうな顔をするライアン様。早速甘えさせておりますわね。クロロ殿も嬉しそうに尻尾を振って、抱きついております。その様子はまるで、弟のようですわ。
ライアン様は過去に弟に殺されかけておりますから、可愛がりたい弟がほしいのかもしれませんわね。
「おだ、笑ったら許して通してくれるだ」
「え……?」
いや、それはさすがに甘すぎますわ。なにか仕掛けがあるのでしょうか?
ライアン様に引っ付いてすりよるクロロ殿は顔をあげて私を見つめました。
「おだの固有スキルっぺ」
「スキル……? 魔法みたいなものですの?」
「そうだべ!」
私は魔法には疎いので詳しくないのでライアン様を見つめると、うーんと彼も困った顔をしました。
「固有スキルは人によって違うからなぁ。僕は全属性保有ってスキルだし。人によってはなかったりするよ」
まぁ私もないですからね。
でも、国境を越えるのに使える固有スキルって、どんなものかしら?
「おだの固有スキルは魅了っぺ。笑うと皆大抵のことは許してくれるだ」
な……なんと。
子供の愛嬌にそのスキルは卑怯ですわっ!
たしかにクロロ殿、かわいいですから。大抵のことは許しちゃいそうですもの!
「でも安心してほしいだ。ティア姉とライアン兄にはスキル発動できないっぺ」
うりうりとライアン様に額を擦って甘えるクロロ殿。たしかに可愛いですわねぇ。
「発動しない、ではなくてできない、ですの?」
安心できる発言でしたが、この二つはずいぶん差があるものですわね。
首をかしげていると今度はクロロ殿、私のところに来てくれました。ちらりとライアン様を見ると“兄”と言われたことが嬉しかったのか、私に近づくのは許可してくださっています。
ライアン様、私への異性の方の接近を毛嫌いしておりますから。こんな子供にはそこまで言わないようです。
「おだ、好きになってほしいって思う人にはスキル使えないんだっぺ」
彼はそう言って、少し悲しそうに笑いました。
好きになってほしい人に……使えない?
それは不便ですわね。赤の他人か嫌いな人にしか使えないだなんて。
「お父も、お母も、おだの事、好きじゃなかと。だから安心してほしいだ」
耳を垂れて寂しそうに笑うクロロ殿。その姿があまりにもかわいそうで、私はその頭を撫でました。
私にはもうお父様もお母様もおりません。それを寂しいと思う時期は過ぎましたが……。
存命で愛されない、というのはいなくなることより悲しいことですわ。
なんとなく、グロード様がクロロ殿を私のところに送った理由が、わかりましたわ。
単に優秀、だけの問題ではなさそうです。
「クロロ殿、そろそろ夕飯のお時間ですわ。よろしければ一緒に食べましょう」
「一緒に……食べていいっぺか!?」
「勿論ですわよ」
これから情報戦のパートナーとして頑張ってもらわないといけませんし、交友関係は保ちたいですの。
これくらいのコミュニケーションは必要ですわよね!
ライアン様に目を合わせると、彼も頷いてくれました。いつも2人で食事をしますから、3人での食事は初めてですの。
だから少し楽しみでしたけれど……
このときの私は、まだ理解しておりませんでした。
獣人と一緒に食事をする、いえ、食事を提供するのは大変なのだということを……。
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