美形の青年
うーん、見れば見るほど美しい。
女の私がそう思うくらいには、美しいという言葉が似合いますわ。
って、語彙力なくなってますわね、ほんとに。
聞かれたことに答えないなんて、マナー違反でしたわ。いけないいけない。
「そうですけれど……なぜ知ってますよ?」
「こやつが教えてくれた」
青年がそういって自分の足元を指差すと、そこには昨日助けたブルーウルフが、青年の足に体を擦ってじゃれておりますの。
なぜわかったか?
昨日トラバサミで怪我した箇所がちゃんと処置されておりましたから。
それにお顔も、昨日の子に間違いないですのよ。私、顔はなかなか忘れませんから。
だからいまだに、叔父様たちが夢に出てきますけれど……。
「貴方様の使い魔でしたの。無事に帰ることができてよかったですわ」
私は公務用スマイルでにこやかにそういうと、青年は首を左右に振ったのです。
あら、使い魔ではないのでしょうか?
「民だ」
……はい?
今この人、何て言いました?
「民だなんてご冗談を」
「……この俺が冗談をいっていると?」
瞬間、青年が消えました。
あれ?
そう思う瞬間もなく、青年は私の前に現れると、グッとほぼゼロ距離まで顔を近づけてきました。
い、今のは……ただ速度の早い移動ではありません。それですの土ぼこりが舞いますから。
それがなかったということは……転移魔法っ!
そんな高等技術、ライアン様だってポンポン使えませんわよっ。
高等技術魔法を意図も簡単に使い、魔物を使いまではなく民という人物……?
「再度問おう。俺が嘘をいっているというのか?」
曇りひとつない瞳が、じっと私の目を見つめます。
一人心当たりありますが、そんなはずありませんわ。そんな、そんなことっ!
「し、失礼いたしますわぁああ!!」
私は質問がん無視できびすを返すと全力で走ります。えぇ、全力です。一度も止まることなく自分の書斎へ戻りました。
ぜぇ、はぁ、ぜぇっ!!
扉を後ろ手で閉めて、私はその場にへなへなと座ります。だって、疲れていますもの。もう、無理です……動けません……。
いえこんなところで座るだなんてお行儀が悪い……せめてソファに移動しましょう。よっこいせっと……。
それにしても、さっきの人はなんだったのでしょう。女性に対して不遜な態度でしたが、それよりも引っ掛かる言動が多い。
そんな人物……いやでもまさか、そんなわけないですわ。
「魔王がこんなところに来るわけ……」
「きているが?」
………………?
……………………っん?
んんんんんんんっ!?
突如私の部屋に現れた青年は、私の背後にたちそういいました。
「ぎゃぁああああっ!!!」
人間、驚くとキャーなんてかわいい悲鳴なんて出ませんわ。
私は雄叫びのような悲鳴をあげて後ろに飛び退きました。そりゃ驚くと言うものでしょう!
「うむ、人間はすぐに驚くな」
驚かせるような事をしてるのは貴方でしょう!?
「いったいどこから入ってきましたの!!」
この人まさか、目に見えないところまで転移してきましたの!? そんなのあり得るわけ……
「そこの窓が開けっぱなしだった」
あ、なるほど。そうでしたか。
指差された窓は全開になってましたわ。
次から気を付けませんと……じゃなくて!
早く追い返さないと、不味いことにっ!
「大丈夫かティア!!」
あー、もう! ややこしいことになりましたわ!!
私の部屋には常に誰が入ってきたかわかる監視魔法が張られております。これは良からぬ男の侵入を毎日危惧していたライアン様を、落ち着かせるための苦肉策でした。
で、今それが発動したわけで……。
「なっ、なぜお前がここに!?」
私のもとへ駆け寄ると、青年を見たライアン様は血相をかけます。歯を噛み締め、睨み付けるライアン様の怖い顔は、今まで見たことないものでした。
何をそんなに、怒っておりますよ……?
「なんだ、誰かと思えば勇者の生まれ変わりか。久しいの」
「質問に答えろ! なぜティアに近づいた魔王!」
ま、お、う?
私は目を点にさせ、ライアン様と魔王と言われた青年を交互に見つめます。その時に青年と目が合い、彼はフッと、笑いました。
「そう、俺の名は魔王グロード。魔物の国を統べるもの。今日はそこの娘に話をしに来た」
魔王って、あの魔王ですよー!?
確かに魔物の事を民といったり、高技術魔法をすんなり使えるなんて魔王くらいですけれど!
何でこんなところに来てますのよー!!
「ティアに何のようだ!」
私の変わりに用件を聞いてくれるライアン様。でもいつもと違って、ちょっとガルガルと噛みつかん勢いですわ。私を背に回し、警戒していらっしゃる。
それだけで、今目の前にいる方が、魔王グロード様だと確信が持てますのよ。
だからこそわかるのです。
今ここに、勇者の生まれ変わりと魔王が邂逅した。
それがどれ程、危険なことなのかを……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます