気晴らし

 うーーん!


 私は一人、森の中で伸びをしていました。

 そう、森の中です。それも一人です。大事なことなので二度言いましたわ。


 なぜそんなところにいるのかと言いますと、ただの気晴らしですわ。


 公務ばかりしていると、息が詰まってしかたがない。そこで私は、大抵誰も来ない森の中に気分転換に来るのです。


 ……えぇ、森の中に放り込まれ、野宿をして、私はすっかり自然の虜になっておりましたの。


 今では知識をつけ、薬草はもちろん、キノコや魚の区別もつくようになり、一人で野宿もできるようになりましたわ!


 前にライアン様が遠征に出掛けられたときも、こっそり2-3日野宿しにいったくらい、今はそれくらい、自然が大好きですの!


 というわけで、本日もやって来たわけですが。今日は目的がありましたの。


 この辺りに群生しているキノコがたいそう美味しくて、どうしてもライアン様に食べさせてあげたかったのです。


 さーて、どこにキノコがあるかしら?


 辺りをキョロキョロ探してみますが、まぁそう簡単にキノコは見つかりませんわ。


 がさがさ


 ん?

 何かがうごめく気配を感じて茂みへと目を向けます。この3年で護身術も身に付けましたし、動物や不審者くらいなら倒せるくらい、強くなりましたの。


 これは簡単に組み敷かれないためですわ。

 領土を追われた時も、私は簡単に組み敷かれてしまいましたわ。


 護身術を学べば、力をつければ、そうすれば非力でなくなります。


 だから私、騎士団にまではいって訓練しましたのよ? 頑張りましたわ!


 さて、そんな自慢はおいておいて。茂みから音はするけれど、なかなか出てきません。


 おかしいですわね。ウサギでしたらすぐに出てくるのに。


「……えっ!?」


 ひょっこり茂みの中を覗いてみたところ、そこには……


 がルルルル


 トラバサミに引っ掛かった、青く燃える炎を纏った狼がおりました。


 あれは……ブルーウルフ。非常に気性が荒いのですが仲間思いで群れで行動する魔物ですのよ。


 これでも私、魔物の知識も増えましたわ。なにせ食べたりしてましたし。この辺りは魔王が収める魔物の国の国境でもあります。


 私がいるレイヤード国、出身のアリバトス、そして魔王が収める魔物の国はそれぞれ大陸を三等分したような配置になっており、領土はレイヤードとアリバトスが大半を閉め、魔物の国はごくわずかの領土となっております。


 ちなみに私の元領地であるパラドール領はレイヤード国、魔物の国のどちらとも節している領地でしたので、国境警備はいつも世話しなかったですわ。


 っていけませんわ。ついつい昔の話をしてしまいました。


 とにかく今は、このブルーウルフを助けて差し上げないと!


 ガルルルァ!


 といっても、軽々しく近づかせてくださりませんわよね。


 トラバサミをとってあげれば逃げられるはずですけれど、うっかり手を出して噛みつかれては困ります。


 もしも血まみれで帰ってきたら、ライアン様は魔物の国を攻めるかもしれませんから。


 そうなっては元も子もありませんのよ!


 よし、こうなれば奥の手ですわ。

 私はブルーウルフの目の前で膝を抱えて座りました。


 そしてブルーウルフが警戒心を解くまで、そこでじっとしておりますの。


 ブルーウルフは怖がっているだけ。

 大丈夫と伝えてあげれば、きっと伝わるはずですわ。


 生き物ですもの! 心は通じるはず!


 ……と息巻いておりましたが、一時間経過してもブルーウルフはガルガルいっております。


 さらに一時間、ガルガルがガルルに変わり……

 追加で一時間後、ようやく大人しくなりましたわ。


 ぜ、全然伝わっておりませんのよ誠意が!!


 ブルーウルフは最終的に根負けしたみたいになっておりますが、まぁ結果は良いでしょう。キノコはとれませんでしたが、それはまた明日にすればいいだけのこと。


 私はトラバサミをとってあげると、ブルーウルフはすぐさま逃げていきました。


 ふふ、もう捕まってはいけませんわよー。


 なんて言えずに立ち上がり、私も帰宅いたします。あまり遅いと、ライアン様がいたしますから。


 そうして翌日、またきのこを採りにやって来たのですけれど……。


「あら……?」


 本日は、先約がおりました。


 昨日ブルーウルフがいた場所に、一人の青年がたっておりましたの。


 長い紺色の、美しいロングヘア。

 海のように透き通り、宝石のように輝く深い緑色の瞳。

 まるで絹のような白い肌に、スラッとした高身長。


 な、なな……なんて美形な人!!

 お人形さんかと思うくらいの造形美に私はその場で立ちすくんでしまいました。


 すると私に気づいた青年は、こちらにその美しすぎる目を向けられました。私思わずたじろぎましたわよ!


「昨日ここで、ブルーウルフを助けたのは、お前だな」


 淡々と告げられた言葉。

 その声すら美しいって、美貌の暴力ですわ。


 ん……?

 というか何でその事知ってますの?

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