ライアン様の報復
ライアン様が私のもとに来て、はや数分。
「さてと」
レイン様はというと、ライアン様にぼっこぼこにされて顔の形が変わっておりました。
残念ながら、かわいそうだとは思いません。ざまぁみろ、ですわ。
「ゆ……るして……に、さま……」
血反吐を吐き、顔を腫らした彼はライアン様の魔法によって宙に浮かされ、じたばたと力なくもがき苦しんでおりました。
「許す? 僕のフィアンセにあのようなことをしておいてか?」
「し、しら、なかっ……たんだ……」
「知らないではすまされないな」
冷たくいい放つライン様。レイン様をぞんざいに放り投げると、壁にぶつけました。
「がはっ!?」
「僕を殺そうとしたことはまだ許せる。でもティアを傷つけたことは許さない」
ライアン様……そこまで私のことを思ってくださるなんて。
不躾にもときめいてしまいながら、私は立ち上がります。だってライアン様、今にもトドメを刺そうなんですもの!
「だめ!!」
私は振り上げたライアン様の腕に抱きついて精一杯止めました。
ダメですわ、ライアン様。殺してしまうだなんて!
「ティ、ティア!?」
「殺すなんてダメですわライアン様!」
私は必死になって彼を説得しようと心がけます。
だって、だって……そんなのあんまりですもの。
「離してくれティア。僕はこいつを殺さないと気がすまな……」
「殺すなんてもったいないですわよぉ!!」
「……え?」
「……え?」
呆気にとられるライアン様と、それを見て驚く私。
ライアン様、なぜそんな顔をされるのでしょう?
「もったいない……?」
「そうですわ、もったいないですの!」
私はもう一度そういうと、彼は振り上げた腕を下ろして、私へと向き直りました。
「もったいないって、君は何をいって……」
「だって殺してしまってはそこで終わりですわ!」
私は、お父様とお母様の死で学びましたの。死んだらそこで、何もかもが終わるのだと。
持ってるものも、大切な思いも、すべて無駄になって。なんにも残らない。
「自分の過ちを理解もせず、のうのうと死のうだなんておこがましいにもほどがありますわ!」
私はビシッとレイン様を指差しました。
「この肩は独房に入れて、一生を償いに当てるべきです」
私は知っていますのよ。傲り腐った貴族が、死よりも恐れること。
それは、醜く生きることですわ。
きれいに着飾った貴族はそのお飾りをとられることを何よりも恐れる。
自分が優秀な人間と勘違いして、服に着せられたあわれな奴隷。
ではその服を奪われたら?
取り返せず、惨めに生きることになるなら?
きっとそんなことになるくらいなら死にたいと思う貴族は多いでしょう。
ましてや、王子さまなら尚更、ね。
でも死なせはしない。終わらせてなるものか。
一生苦しんで苦しんで、そこから地獄に落ちればいいのよ!
私はレイン様を叔父様に重ねて、冷ややかに笑いました。
そう、笑うのです。
決して、泣いてはいけません。
微塵も、相手に優位にたたせないために。
「く……あはははっ!」
私の真剣な演説に、ライアン様は大笑い。もう、こっちは真剣だと言うのに!
「いやー、こんなに笑ったのは久しぶりだよっ。やっぱりティアは最高だね」
目に涙を浮かべた彼はそういって一頻り笑うと、いつものような調子で私の頭を撫でてくれました。
「そうだね、死ねばそこで終わりだ。僕は過ちを犯してしまうところだったよ」
気づいてくださってよかったですわ。ライアン様はもう一度レイン様と向き合うと悲しそうに笑いました。
「君が極悪非道で助かったよ。僕への暗殺未遂で君を独房へつれていく」
「ま、まってくれ……い、嫌だ、独房なんて嫌だぁああ!!」
逃げようとしたレイン様は兵に取り押さえられ、引きずられていきました。
うんうん、これにて一件落着ですわ!
ちゃんと自殺しないか見張っておかないと行けませんわね!
「君は本当に面白いよ。フィアンセにしてよかった」
誰もいなくなった部屋で、彼はソファに座ると私を手招きしました。
そそくさ近寄ると、彼は自分の膝の上に私をのせて横抱きにいたします。う、美形が近くて輝いてますわっ。
ライアン様はかっこいいと言うよりも可愛い系ですわね!
「ティア、これからも僕のそばにいてね」
「もちろんですわ、ライアン様」
ライアン様は私のおでこにキスをおとしてそういいました。殿方に愛されるって、こんなにも幸せなんですわね。
こうして私は、晴れてライアン様のフィアンセ候補としてレイヤードに亡命いたしました。
そこからまぁ、甘い甘い生活が始まる……訳もなく。レイアードの文化や歴史を叩き込まれ、マナーも学び直し。
王妃候補として徹底的にいろんなことを叩き込まれ……あっという間に3年の月日が流れ。
私の復讐劇は幕を開けましたのよ。
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