潜入
私は今、敵地の真ん前におります。
そう、あの遠征基地と言うなの要塞の真ん前ですわ。
大丈夫、落ち着くのよ。
作戦は頭にいれたし、きっと大丈夫。
「誰かおりませぬかー! 亡命してきました、どなたか助けてくださりませんか!」
私は堂々と声を張り上げますの。
ライアン様の作戦はこうです。
まず私は、亡命者として遠征基地へと向かいます。ここは国境付近、亡命者は珍しくありません。
レイヤード国は移民に優しく、国境警備隊もそれを知っておりますゆえ、亡命者は優しく保護されます。
そしてレイヤード国では必ず幹部が、亡命者の話を聞き国へ招き入れるのが礼儀とされておりますの。
本来この国境の幹部には、王子としてライアン様とレイン様がその役に当たられます。しかし今はライアン様は不在。となればレイン様が必ず話を聞きにやって来ます。
案の定警備隊の人たちは私に優しい言葉をかけ、招き入れてくださりました。もちろん身体検査はありましたが、元々なにも持たずに放り出された身ですもの、やましいものはありませんわ!
そうしてまんまとなかにはいれたわけですが、ここは国境付近の要塞。そこかしろに監視の魔法がかけられて、中の事はレイン様につつ抜けになるそうです。
だからこそ、お部屋などの警備は手薄になっているそうです。そうですわよね、常に状況がわかるのでしたら、わざわざ部屋の前に兵はおきませんわ。
こうして私はレイン様の部屋に通されると、暫し待つように言われ兵士は去っていきました。
……部外者を部屋に一人残すなんて不用心にもほどがありますが、それもこれも監視魔法があるからこそ、なのでしょう。
さて、ここからが時間との戦いですわ。
レイン様は、大事なものは必ずお部屋のテーブルの、決まったところにしまうそうですわ。
レイン様にとって、ライアン様の魔法を封じている鍵はとても大切なもの。きっとこそに鍵はあるに違いない。
これは一種の賭けですけれど、この賭け、私が勝ちますわ!
私は扉がしまると同時にダッシュしてテーブルへと向かいます。監視魔法がおかしな動きをとらえて兵士がくるまで数十秒かかりますの。
その間に鍵を手に入れて窓から脱出!
これが作戦ですわ!
「ありましたわ!」
案の定鍵はテーブルの中にありました。見事な装飾のされた鍵ですし、たぶんこれですわね!
よしあとは窓から脱出して……
「そこで何しているっ!!」
ビクッ!
え、えぇ!?
振り返るとそこにはライアン様に面影がにた、栗毛の少年がたっておりました。
きっとレイン様ですわ!
な、なんで……来るのが早すぎましてよ!
「何をしている、早くコソドロをとらえよ!」
ひぃい!!
非力な私はあっという間に取り押さえられてしまいましたわ。
どうしましょう、こうなっては作戦はお釈迦ですわ!
でも、この鍵はなんとしても、ライアン様に届けなければ……。
えぇい! もうどうとなれ!
ぽーーい!
私は最後の力を振り絞り鍵を窓のそとへ投げました。
「なっ!! おまえ、なんで兄上の鍵をっ!」
ここでようやく、私が投げたものが鍵だと気づいたレイン様は、取り押さえられた私のもとまで来ると、私の胸ぐらをつかみすごい剣幕で捲し立てます。
「吐けっ! なぜ兄上の鍵を貴様がっ」
「う……ぐるし……」
胸が閉められて呼吸がしにくくなって、じたばた暴れても全く緩む気配がありません。
あぁ、私の人生もここまでですの……
13年、最後は裏切られて、誰の役にもたてずに終わるだなんて……
そんなの……
そんなの……嫌ですわ……っ!!
「た……すけ……ライ、ア、ン……」
かすれ行く意識の中、唯一助けてくれそうな人の名前を呼んだとき。
ビュォオ!!
「うわっ!!」
突然突風が吹き、レイン様が吹き飛ばされました。
「げほっ、ごほ……」
一体何が?
そう思って窓の外を見ようとしたときでした。
「ティア! 大丈夫かい!?」
私に優しくライアン様が寄り添ってくださりました。ライアン様……ごめんなさい、私鍵を投げてしまって……
あぁ、私のバカ。ライアン様が来るとわかっていたら、鍵は手放さなかったのに!
なんて思っていたら、私の目の前でがしゃりと何かが落ちました。
あれ……これは……ライアン様につけられていた腕輪ではないですか!?
な、なぜ鍵が外れて!?
「ティアが鍵を投げてくれたお陰で、僕は自由になれたよ」
彼はそう優しく微笑むと、私の頭を撫でてくれました。すると不思議とさっきまであった胸の痛みが収まったのです。
「くそ……なにやってる! みんな俺を守れよ!」
吹き飛ばされたレイン様はそう叫びますが、兵士の誰一人として動こうとしません。
いえ、動けないでいます。
何せ皆さん、足が地面に埋もれておりますもの……。
兵士の数は5人ほど。それの足をすぐに封じるなんて……。
みると、ライアン様は恐ろしく冷たい笑みを浮かべておりました。
私ははじめて知ったのです。
ライアン様は、怒るととっても怖いことに。
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