いざ行かん!
ぜぇ……はぁ……ぜぇ……
拝啓お父様、お母様。
私は今、どこに居ると思いますか?
もう今は、ぼろ屋にもおりませんよ。あそこは虫が多くて嫌になりますの。
変わりに今は、森の中で野宿をしております。
そう、野宿です。
って、この下り二回目ですわね。使い回すのはよくない。
って、私誰に話しているのかしら。
「大丈夫かいティア。やっぱり次は僕が担いでいくからね」
今はお日様がいっぱい照らされたのお昼頃。魔物がたくさん徘徊しているこんな森で、私たちは焚き火を囲んでランチ中ですの。
なぜそうなったかと言いますと……。
遡ること、数時間前。
私がライアン様からプロポーズを受けたあとですわ。
顔を真っ赤にしながら魚をむさぼり食っておりました私に、彼はこういいました。
「しばらく山を上った辺りに、僕が遠征していた基地があるはずなんだ。きっとそこに、鍵がある」
ライアン様の右腕につけられた、金色の大きな腕輪。
それがあるせいで、ライアン様は力を発揮できないらしいのです。
……まぁ、力が発揮できてない状態で、森をえぐったり熊を丸焼きにしたりできですけれど。
本来の力は、もっとすごいらしいですわ。
「本当ならば空も飛べるしドラゴンも呼べるから、空の旅だってできるのに」
彼は不服そうにそういいました。
そ、空の旅……聞く分にはロマンチックですけれど、実際は悲鳴をあげそうなシチュエーションですわ。
腕輪をつけられた状態では自国に帰っても暗殺の危機にさらされる。
そういうわけでまずはライアン様の腕輪外しのため、その遠征基地とやらを目指しておりますが……。
「遠くないですの?」
私が遅いと言うことを差し引いても二時間くらい歩いてまだまだ先と、彼は笑顔で言いやがりましたわ。
彼のしばらく上った先、のしばらくはどうやら私の思っているそれより何十倍も長いようですわね。
「もうちょっとなんだけどなぁ。ティアは中々歩くことってないだろ? つかれてるだろうし僕がおぶった方が早そうだね」
うっ、嫌みない笑顔で嫌みを言われておりますわっ。
悪かったですわね。令嬢は基本馬車で移動しますのよ!
と口を尖らせながら、昨日とった熊の肉の残りを食べますの。うんうん、相変わらず臭みは強いですけれど、なれればいけますのよ、これ。
最近はライアンのお陰でいろんなものを食べられて食に困らなくなりましたの!
蛇の蒲焼きに蛙の丸焼き、良くわからないキノコや、草。
最近は雑草と薬草の見分けがつくようになって、それはそれで面白いですわ!
ずっと家に引きこもってた令嬢時代ではあり得ないことでしたけど、体を動かすのって悪くありませんわね。
今日なんて木に上って鳥の巣から卵を拝借いたしましたの!
卵は貴重な栄養だと、前に本で読んだことがありましたからね!
私はいつか必ず領地を奪還する。
でもまずは、生き抜かなければ始まらない。
なんとしても生き残ってやりますわ!
ということで、ご飯も済ませた私はライアン様におんぶされながら進むことに。
正直おんぶしたところでスピードなんて変わらないと思ったおりましたけど……全然変わりましたわ。
あっと言う間に彼は崖を登り、川を渡り……私が歩いたらあと数日かかる道のりをわずか一日でこなしてしまいましたの。
「見えた、あれが基地だよ」
木の影から見たそれは、まるで要塞のようでした。これ、もしかして国境警備の建物ではなくて?
そう思えるほどの頑丈な作りに、兵隊の数。
兵隊さんも、とても屈強な男性ばかり。
こ、こんな中からどうやって鍵を探し出せばいいんですの?
何ておろおろしていたのが伝わったのか、ライアン様がよしよしと落ち着かれるように頭を撫でてくださりました。
「大丈夫、作戦はあるよ。でも今日は疲れてるだろ? もうすぐ日がくれるし……」
もう夕方で空も赤くなっておりました。
確かに、夜に攻めるのは奇襲に向いておりますが、私たちの目的は鍵の奪取。
むやみな争いは起こさないに越したことはありませんわ。
今日はもう休むことにして、少し離れた……嘘ですわね、気づかれないようにかなり離れた場所で野宿することになりましたわ。
もうこうなれば野宿だろうがなんだろうが、やってやりますわ。
ライアン様の腕輪が外れれば、彼は第一王子として国に帰ることができる。
そうすれば後ろ楯を得られた私は、領地を奪還できる。
これは必要なことですの。多少の危険は、省みませんわ。
「ティア、ティア!」
なんて日の前でぼんやり考えておりましたら、彼がとことこ帰ってきました。全く、どこにいっていたのでしょう?
「みてみて、寝床を作ったよ!ほら!」
そういって指差してくれたそこには、木と木の間に枝と大きな葉で作られた、簡易的な家がありました。
冷たくて固い土の上で寝るよりはまし、というかこの状況で見れば高級な寝床ですわ!
「わぁい!!」
「ティアを地べたに寝かすわけにはいかないからね」
なんて紳士なの!
「私の未来の旦那様は、とても優しい方ですわ」
私が嬉しそうに笑うと、彼は顔を赤らめてはにかんだ。火を炊き続けると見つかる可能性もあったため、今日は火を消して、変わりに二人で寄り添いながら寝床で眠りました。
さぁ、明日はいよいよ作戦開始。
う、うまくやりますわよ……っ!
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