食料確保

 ライアン様は隣国の第一王子でとても強い魔法の使い手。


 その情報を頭の中で理解するのに、数分かかりましたわ。


 第一王子ということは、王位継承権第1位を現すはず。


 ということは、彼は時期国王と言うことになります。


 なぜ時期国王様がこんなところで川に流れて寝ていたのか……不思議でしかたありませんが、今はそれよりも……。


「魔法が使えるのでしたら私を助けてくださいまし~!!」


 今はこの強運にすがるしかありませんわ!

 魔法とは未知の領域ですが、絵本で読んだことがありますの。


 お菓子を出したり、空を飛んだり。あり得ないようなことができる能力が魔法と言うのでしょう!?


 でしたらこの空腹も何とかしてくださいませ~!!


「いいよ、助けてくれたし。それに僕、年の近い人と話す機会なくて嬉しかったからさ」


 彼はにこやかに笑うと、泣きつく私に少し離れて、といって森の方へ歩み寄りました。


 も、森には怖い魔物がたくさんいてあぶな……


 ボッ!


 ………んんんん!?

 私は、今何を見たのでしょうか……!?


 彼の手のひらから大きな火球が現れたかと思うと、森に放たれ木々がえぐられていきました。


 丸く穴の空いた森からは薄く火が出て、遥か彼方まで筒抜けですわ。


「うーん、やっぱりちからが制限されてるなぁ。ちょっとご飯をとってくるからまっててね」


 彼はまたスマイルを向けると、放心している私をよそに地を蹴りました。


 するとあら不思議、彼が消えましたの!


 え、え、どこにいきました!?


 と、思った瞬間に戻ってきました。その肩に、自分の身長の倍くらい大きな熊の魔物を担いで。


 ……も、もう状況が追い付きませんわ……っ。

 さ、さっきの火球にやられたのかしら、熊の魔物はこんがり焼けていて、とてもいい匂いがしますの。


「さて、それじゃ食べよっか」


 彼がそういうと一瞬にして熊がお肉に変わりました。そして内蔵も一緒に分けられて……


「ひぃいい!!」


 ただの令嬢の私には少しグロッキーすぎる映像ですわ!!


 一瞬にして血の気な引いた私を見て、ライアン様はあわてて内蔵を消し炭にしてくれましたわ。


「ご、ごめん……ちょっと過激だったよね。次から気を付けるよ」


「本当に気を付けてくださいまし!! 」


 私は涙目でそういうと彼はまた、頭を撫でてくれました。


「ごめんごめん。僕、あんまり令嬢と会うことなくて扱いがわからなくて」


「わかりましたわ! 令嬢との接し方でしたら教えて差し上げますので、とにかくご飯をくださいまし」


 もうおなかがすきすぎて死にそうなのに、目の前でジューシーなお肉を前にされては、本当に気絶しそう。


 本当ならばフォークとナイフを使っておしとやかに食べるのがマナーですけれど、ここにはそんなものはありません。


 私ははぐはぐと、マナーのマの字もない両手で食べると言う、お母様が見たら倒れられるであろうはしたない食べ方をしました。


 でも、でも、仕方ないのですわ


「おいっしぃ!!」


 私は夢中でお肉を食べますの。なんの味付けもされていない、獣臭い肉なのに。空腹でそれどころじゃなくて、お肉はとっても美味しい。


 そんな私を、ライアン様はクスクス笑いながらも見守ってくださりました。


「はぁ、おいしかった!」


 1日ぶりの満腹に満足した私は、食事を終えたライアンと一緒に手を川で洗い、火にあたって服を乾かしました。


 その間に、彼の話を聞きましたの。


 なんでもライアン様はご兄弟と遠征をされていたらしいですわ。狩りなどして気分転換をするはずでしたが、弟のレイン様に騙されて魔力を封じる腕輪をさせられ、川に突き飛ばされたらしいのです。


 そしてかなりの距離を流されてここまで来たらしいですわ。良く生きておりましたわね、本当に。


 そんな話をしていたら、もうすっかり夜になって。でも今夜は火があるから安心ですわ。


「僕、勇者の生まれ変わりなんて言われてるくらいには強いから、中々死ねないんだよねぇ」


 吹けば飛びそうなぼろ屋に二人でならんで寝転がって夜を過ごすなか、彼は隙間から見れる夜空を見上げてそういいました。


 その横顔は、とても寂しそうでしたの。


 強さゆえに疎まれて、彼はずっと一人で暮らしていたらしいですの。皆から恐れられて。


 皆から愛されて、ちやほやされてた私とは、大違いの生活ですわ。


「僕の力を見て怖がるどころか助けてっていってくれた人は初めてだったんだ。だから嬉しかったんだ」


 彼はそういって笑いかけてくれます。実の弟から殺されかけて、きっと傷ついているはずなのに……私なんかに笑いかけてくださるなんて。


 何て強い方なんでしょう。


 私は起き上がると彼のところまでやって来て、その頭を撫でて差し上げましたの。


 その強さと、そして寂しい彼を慰めるように。


「わー、撫でてくれるの? ありがとう……あれ?」


 彼はいつも通り笑うけれど、その目には涙が浮かんでいた。


「あはは、おかしいな……なんで、泣いて……」


「おかしくなんかありませんわ。それが普通ですの」


 ひとりぼっちで、兄弟に裏切られて、悲しくない訳がありませんの。


 私は彼が落ち着くまで優しく頭を撫でると、彼はボロボロと、静かに泣き出しました。

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