川を流れる王子さま
拝啓、天国のお父様、お母様。そちらでお元気に過ごしておりますでしょうか。
今日もとっても晴れていて、喉が乾いてしかたがありませんわ。
というわけで私は今、川の水をすすっております。
そう、川の水です。
私、お母様たちを殺した嫌疑をかけられて、追放されました。
誰一人、助けてくれずに。
そして唯一の助けのように渡されたこの家も、いつ魔物に襲われるかわからない危険地帯。
もしかしたら、私もすぐそちらにいくかもしれ……
「行くわけにはいきわせんわよぉぉ!!」
ざばぁ!
私は川で思いっきり顔を洗います。いけませんわ、弱気になっては。
負けてはいけません。必ず、領地を奪還するのです。
お父様とお母様が残したものを、奪われてなるものか!
「そのためにはまず私が生き残らないといけませんわ。こうなれば、川の水だろうとごみだろうと食べて生きて見せますわ!」
ぐーぐー
しかし、ここでは残飯すら漁れませんの。
非力な令嬢では、食料を集めるための狩りなんてできるはずもありません。
お陰で何も食べられず、おなかがすいて死にそうですわ。
私、とてもやつれましたわね……美しかったブロンドヘアはくすみ、青い瞳はなんだか疲れていますもの。
自慢だった絹のようなお肌も、今はボロボロですし、唇だって乾燥しておりますわ。
「お水さえ飲んでいれば死なないと言いますけれど、それでも限界がありますのよ……」
このままでは数日で餓死してしまいます。
まずはこの危機をなんとかしませんと……
……ん?
あらいやですわ、私、疲れて幻覚を見ているのかしら。
川から、何か流れてきましたわ。
どんぶらこっこどんぶらこー
あらあら人が流れて……
って、人~!?
「な、な、な……っ!」
私はとっさに川にはいるとそのプカプカ浮いている人を引き上げましたわ。うぅ、とっても重い。水を吸った服が余計に重くなっておりますのよ!
えっさ、ほいさとなんとか岸まで引き上げましたけど……
普通に考えて、死んでますわよね、これ……
さすがの私も、死体を食べることはできませんわ……。
でもとても、きれいなお顔の少年ですわ。
栗毛の癖っ毛に、白々の肌。長いまつげに、プリプリの唇。
まるでお人形さんみたいなそのお顔が、ピクリと動きましたの。
ん……動いた?
「い、生きてますのー!?」
私はビックリして飛び上がると、それと同時に少年の目が開き、むくりと起き上がりましたわ。
「ふぁあ! 良く寝た!」
「寝てたと言うより死んでましたわよ!?」
っは! いけない、思わず突っ込みをいれてしまいました。
私の声に驚いた少年は、私を見てさらに目を丸くいたしましたの。
「あ、あれ……ここ、どこ?」
「えっと、ここは魔物が徘徊する危険地帯のど真ん中……ですわ」
すると少年は首をかしげて
「なんでそんな危ないところにいるの? 迷子かい?」
そう、笑顔で聞かれて私の心をぐさりと指していきました。
うぅ、そうですわよね。普通はこんなところに、人はいませんわよね。
私は自分のいきさつを話しましたの。追放されたこと、両親が死んだこと、全部。
話しているうちになんだかとっても惨めになって泣いてしまいましたが、少年……ライアン様が頭を撫でてくれましたので、泣き叫ぶには至りませんでした。
「大変だったんだね」
「ぐす……そんなこと……ありましたわっ」
お陰でお腹もすいたし、一人で寂しくて。ようやくで会えた知り合ったばかりの人に、このような話をするのも変ですが、とにかく私は誰かに話を聞いてほしかったのだと思いますの。
ぐるるるる
せっかくいいムードでしたのに、私のお腹は素直に声をあげておりました。それを聞いて、ライアン様がクスリと笑いましたの。
「お腹すいたし、二人ともびしょ濡れた。とりあえず火を起こすね」
火を……起こす。
「そんなことできますの!? 」
私は思わずそう突っ込んでしまいました。だって、火なんて中々起こせませんもの。
昨日もさんざん挑戦してだめで、夜くらいなか一人で眠りましたのよ。
そんなに簡単に火なんて……
ボッ
……え?
私が瞬きしている間に、焚き火ができておりました。
ん、え……えぇええ!?
「そうか、君の国では魔法は使えないんだね」
そういった彼の手から、火が溢れていましたの。
聞いたことがあります、隣国レイヤードでは魔法は当たり前に使え、代わりに武力が私のいる国、アリバトスより劣ると言われていると。
ちょっと待ってくださいまし……
確かにここは、レイヤードとアリバトスの国境付近。しかし隣国まではかなり距離がありますわ。
でも魔法が使えるってことは……つまり……。
「そういえばいってなかったね。僕はライアン・レイヤード。レイヤード国の第一王子だよ」
彼はにこやかにそういいましたの。
だ、第一王子って……
次期国王じゃないですよぉぉおお!?
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