第9話

「そうですか。私はいまだにノーレッジさんとしか会っていなくて。本当に参加者が八人もいるのかなと思ってました」

ノーレッジは俺はいまだに会っていないが、この引きこもりは会ったようだ。

「そうですか。俺は自分以外の人に会ったのは、社畜さんで四人目です」

「そうですか。ところで話は変わりますが、この屋敷の外で、なにか変なものを見ませんでしたか?」

「変なもの?」

「ええ、ノーレッジさんにも聞いたのですが、ノーレッジさんは見ていないようでした。私もはっきりとみたわけではないんですが、とにかくでかくて素早く動くなにかです」

あれか。俺もはっきり見たわけではないが、でかくて動くものは見た。

「見ましたよ。ほんの一瞬でしたが」

「そうですか。私もほんの一瞬でした。ベランダで見たのですが、すぐに屋敷の陰に隠れてしまって。とにかく動きが早くて」

「俺もベランダでみました。すぐに屋敷の陰に隠れてしまいましたが」

「同じですね」

「そうですね」

俺と社畜はほぼ同じ状況であれを見ていた。

社畜が言った。

「あれ、なんだと思います?」

「さあ。車とかには見えんかったですね。なにか一つ上げるとしたら、動物ですかね」

「それも私と同じですね。でもあれ動物だとしたら、牛なんかよりもずっとでかいですよ。象に近いくらい」

「そうですね。私が見たのもそれくらいの大きさがありました。ほぼ象くらいですかね」

「でもここは離島とは言え、おそらく日本でしょう。日本にそんな動物がいますかね」

「いや、いませんね」

「でしょう。だったらあれはいったいなんなんですかね」

なんなんですかねと聞かれても、俺にもわからない。

それをそのまま答えた。

「そうですか。他にあれを見た人がいますかね」

「アンノウンさんが見てますね」

「そうなんですか。それでアンノウンさんはあれのことをなんと言ってましたか?」

「はっきり見えなかったのでよくわからないが、大きな動物のような気がしたと言ってました」

「そうですか。すると三人とも大きな動物に見えたんですね」

「ええ、そうなります」

社畜はそのまま黙ってしまった。

俺もそれ以上は答えない。

結構長い沈黙の後に、社畜が言った。

「わかりました。今後あれについてなにかわかりましたら、必ず教えてくださいね」

「ええ、もちろんいいですよ」

「ありがとう。それじゃあ私はこのへんで」

社畜はそのままどこかへ行ってしまった。

俺も自分の部屋に帰った。


次の日はももさん、アンノウン、クマちゃんに会った。

そしてさらに次の日、昼に小柄な中年男性に会った。

話をするとその男はキングだった。

おとなしくて口数が少なく、話が全く弾まない。

まあネット依存症の人間としては、それほど珍しくはないが。

どうやら大きななにかも見ていないようで、特に情報を交わすこともないまま別れた。

そして夜に、いかにも学者か医者かといった風貌の二十代に見える男に会った。

名前を聞くとノーレッジだった。

ハンドルネームに知識とつけるだけのことはある見た目の男だ。

「名前はほかの人から聞きましたが、会うのは初めてですね」

「ええ、私は部屋に引きこもりがちなのでね」

話し方にすら知性を感じてしまうその口調。

特定の女性にはかなり好かれるであろう男だ。

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