第10話
「ここの暮らしはいかがですか?」
ノーレッジがそう言うので答えた。
「最初はネットが使えないのですごく落ち着かなかったのですが、最近は徐々に慣れてきましたね」
「私もです。ネットでいろいろと知識や情報を得るのが好きなもので、それができないのはつらかったですね。でも人間はなれる動物ですから。身体を脅かすもの以外は、そのうち慣れてしまうんですよ。このツアーを思いついた人は、よく考えていますね」
この内容であの口調なのだから、妙に説得力がある。
人を引き込む力のある男だと思った。
俺は言った。
「ところでツアーの参加者にはみんな会いましたか?」
「ももさん、アンノウンさんには何回も。あとはくまちゃん、キングさん、社畜さん、そしてポンチさんに今会いました。あと会っていないのは、ももさんから聞いたみゃあちゃんだけですね」
俺と同じだ。
俺もみゃあという若い女性だけ会っていない。
ももがいるとはいえ、あとの六人は見知らぬ男性。
そんな人間と同居しているのだ。
若い女の子ならさぞかし出歩きにくいだろう。
八人の中で、一番引きこもっているかもしれない。
「俺もみゃあちゃん会っていないですね」
「お互いにみゃあちゃん以外の最後にあった人というわけですか。面白い。ふむ、実に面白い」
ノーレッジの独特の言い回しに、どう返せばばいいのかと戸惑っていると、ノーレッジが言った。
「それでは、私は今から図書館に行きますが、一緒にどうですか?」
「いえ、俺は映画でも見ようかと思います」
「そうですか。それは残念です。それでは」
そう言うとノーレッジは去っていった。
俺はマイペースな男だと感じた。
――あとはみゃあちゃんだけだな。
ももに言わせると、若くてかわいらしいと言う。
二十代の男としては、参加者の中で一番興味がある。
健全な男性なら当然のことだ。
でも考えてみると、そうそう会う機会はないのかもしれない。
そう思いながらミニ映画館からソフトをとってきて自分のへやに戻ろうとした時、廊下に若い女性がいるのを見た。
人形のようにかわいらしく、服の上からでもわかるスタイルのいい女の子だ。
しかし俺がその子を見ている時間は短かった。
女の子はすぐさま一番の部屋に入っていった。
――みゃあちゃんだ。
八人の中で一番会いたいと思っていた存在だ。
会話はできなかったが、それでも俺はなんだか少し幸せな気分になった。
それから数日間は、とくに大きな変化はなかった。
というか、ここに来て以来、大きな変化というものは一つもないのだが。
自分の部屋にこもらないももとアンノウンには何度も会い、それ以外の人もみゃあを除けば一度は会って会話をした。
そしてさらに数日が過ぎたころ、食堂であったアンノウンが言った。
「ここ数日、ももさんを見かけないんですが、なにか知りませんか」
「俺もです。毎日のように会い、多いときは一日に三回会ったこともあるのに。この三日間くらいは、一度も会っていないですね」
二人してしばし黙り込んだ。
少ししてアンノウンが言った。
「ちょっと訪ねてみましょうか」
「ももさんの部屋に?」
「そうです。二番の部屋ですね」
一番がみゃあだから、その隣だ。
女性は二人しかいないのだから、部屋を並べるのは当然のことだろう。
二人して二番の部屋に行った。
各部屋には呼び鈴がついている。
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