第7話

「アンノウンという男の人です」

「すると私とポンチさん、みゃあちゃんとアンノウンさんで、少なくとも四人はいることになるのね。一緒に住んでいるのにほとんどほかの人に会わなくて。というより私、今までほとんど部屋から出なかったんだけど」

「それは俺も一緒ですね」

そう言うと、ももは笑った。

つられて俺も笑う。

それから少し世間話をした。会話は弾んだとは言えないが、ここに来て一番長く話をした。

「じゃあもう部屋に帰るわね。私は今からあまり部屋にこもらないようにするわね」

「そうですか。そのほうがいいかもしれないですね。それではまた」

「それじゃあ」

ももはそそくさと部屋に帰っていった。

俺も自分の部屋に戻った。


その日の夕方にミニ映画館に行くと、アンノウンがいた。

「やあどうも」

「どうも、こんばんは」

DVDを借りに来たようだ。

俺と同じだ。

俺は言った。

「朝、ももさんという女性に会いましたよ」

「ももさんなら、私もお昼に会いました。あとノーレッジという若い男の人にも」

ノーレッジ。英語で日本語に直すと知識という意味だ。

その男、自分の知識に自信があるのか。それとも知識に対して憧れでもあるのか。

どちらにしても知識に強い意識を持っていると考えられる。

俺は言った。

「ももさんがみゃあちゃんという若い女性に会ったそうです」

「へえ、若い女性がいるんですか。私は会っていないですね。とにかく私とポンチさん。ノーレッジさんにももさんとみゃあちゃんの女性二人。参加者のうち、五人までが判明しましたね」

「そうですね。初日は俺一人かと思いましたが」

「それは私も同じです。ところでポンチさん」

アンノウンの顔がやけに真剣な顔になった。

「ポンチさんはなにか見ませんでしたか?」

「なにかとは?」

「動く大きななにかです」

見た。ほんの一瞬ではあるが。

「アンノウンさんも見たのですか」

「ええ」

「どんなやつです。俺の時は一瞬すぎてよくわからなかったんですが」

「森の近くを散歩している時に、森の奥で何かが動いたのが見えたんです。しかし少し距離があったし、それとの間に木がたくさん生えていましたから、はっきりとは見えなかったんです。それにすぐに見えなくなってしまったし。ただ、動く大きな何かがいたのは確かです」

「俺も見ましたが、一瞬のことだったし、夜だったし。だから何であるかはわかりませんが、アンノウンさんと同じで、動く大きななにかを見ました」

「そうですか。なんでしょうね、あれは。車とかには見えなかったし。森の中に車が通れるような道はないし。仮に動物だとしたら、あんなに大きな動物が日本にいるはずがないし」

「そうですね。気になりますね」

「気になりますね。それに不安でもあります」

「不安とは?」

俺の疑問にアンノウンははっきりと答えた。

「ええ、不安です。あれがなんだかの動物だというのなら、そして人を襲うものならば、襲われたら私たちに勝ち目はないでしょうね」

――襲われる?

俺は考えた。

あれを見て以来、あれはなんだったのだろうと何度も考えたが、あれに襲われるという発想は全く思い浮かばなかった。

しかし考えてみれば、あれが人を襲うという可能性はゼロではないのだ。

今のところ、なんだかの動物であるという確証もないのだが。

どちらにしても人畜無害であるという保証はどこにもない。

「そうですね。その危険性はありますね」

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