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「藤生さんどうしたんやこれ?殴られたんか?」
間接照明が照らす部屋の中で、麻薙は俺の頬に張られた絆創膏に触れる。
「…どうだっていいだろ」
いいことあらへんやろ、と言いながらも麻薙はそれ以上踏み込んでは来なかった。
「そろそろ回ってきたか?」
錠剤を飲んでから10数分後、麻薙が俺のシャツの中に手を差し入れる。だが俺は反射的にそれを肘で押しのけた。
麻薙は釣れない態度をとる俺に不快気に眉をひそめた。
MDMAは開放性や感情への反応性を増加させ、他者への親近感を生じさせる。だがいつもの多幸感を伴った酩酊は、今日の気分じゃなかった。俺はもっと自分自身を壊してしまいたい自棄的な欲求に駆られていた。
「…ヘロインあるんだろ…くれよ」
「…は?」
「…」
「…悪いこと言わんからやめとき、パンピーが手ぇ出していい代物やない」
冷たい声色。麻薙がこちらを覗き込んだ目は俺が見たこともないような決然とした冷たさを湛えている。
ああ、畜生、お前までそんな目で俺を見るのかよ。
分かってるさ。こんな狂った世界で正気でいるには冷静かつ酷薄でいなければならないことくらい。
でも俺は少しだけ意固地になっていた。
俺は麻薙に自ら進んでキスをした。軽い酩酊状態でもそんなことをするのは初めてだったから、麻薙は少し驚いた顔をする。
「なんでも…するから…」
麻薙は一瞬逡巡するような顔をする。だが俺の身体をぐいと押しのけた。
「…薬でヘロヘロのあんた犯したところでなんもおもろないわ…少し理性残したままのがええねん」
変態かよ…
俺はそれでも食い下がった。
「…くれよ…そうじゃなきゃ…さもなきゃおれを…」
いつの間にか絞り出すように、震える声で俺は話していた。
「さっさとおれをころしてくれよ…」
一瞬の静寂の後、髪を掴まれた。見ると麻薙の顔には見たこともない表情が浮かんでいた。
「…藤生さん…あんた聞き分けのない餓鬼や」
麻薙は俺の顔を挑むように覗き込む。焦燥を愉悦で隠そうとしているみたいな、不思議な表情だった。
「エクスタシー追加で処方したる…そんでいつもの二倍ブチ犯したるさかいそれでええな?」
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