第47話 本当の先生

「私が皆さん方の新しい先生になります。彼にも言いましたが、私は皆さん方に労働をさせるのは大反対です。

勉強を教えることのほうが得意と言えばまあ、そうかもしれません。とにかくそれを第一にしましょう。

若い頃に勉強をして「記憶の引き出し」を多く作ることが大切だと言ったのは、確か日本のノーベル賞受賞者であったと思います。

記憶力はもちろんあったほうが良いです、さあ、がんばりましょう、席に座ってください」

そういって、一人一人に数枚の紙を閉じたものを配り始めた。

「それぞれの学年に合わせたカリキュラムです。今までのプリントの結果も見ていますので、それが出来るようになって下さい、

ああ、本当にすごいですね、紙の感触も指先から何となく伝わってくる。私も何か新しいことでも始めて見ましょうか、あなた方に一方的に勉強しなさいと言うのもおかしいですから。日本らしい楽器とか、何かありますか? 」


「お琴はどうですか、先生」

「いやあ、三味線だろう、格好いい」

「鼓ってすごく難しいんでしょ? 」

「難しいと言ったら尺八」

みんなは楽しそうに話しているが、僕はプリントに釘付けだった。

「どうしたんだよ、緑、急に大人しくなって」

僕はその言葉に何も言えず、先生を見つめた。

「気が付きましたか? 緑君、そうですよ、君が苦手なところをわかりやすく解説して、徐々にレベルが上げられる様になっています。

皆さんはどうも勉強よりも私が嫌いな「労働」のほうがお好きなようですね。

ではこうしましょうか

「テストで合格したものが外で仕事も出来る」と」


みんなもプリントに釘付けになった。


「警察官になるあなたも、基本的な漢字で間違いやすいものをもう一度復習してください、ああ、そのプリントならば塾外に持って行ってもらっても結構ですよ」

みんな仕方なくプリントをやり始めた。


「先生のこと嫌いになりそう・・・」

誰かが冗談半分に言ったけれど、それを聞いた先生は


「そう言ってくださって大成功です。立場の違う人と人との関係は、あんまり親密にならない方が私はよいと思っています。けじめをつけて言わなければならないことがありますからね」

「う・・・怖い・・・」

「大人になれば、そういう所も必要になります」

「先生、でも笑っているでしょう? 」

「よくわかりましたね! 今日は最初の二枚を完璧に終えてください」

 

 これから、新しい塾生活と仕事がスタートする。

 今までとは比べようもない事が待っていることは

 誰もがわかっていた。


           第一部   完

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レオナルド・ダ・ヴィンチの子供達 @watakasann

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