第46話  失恋話

「そうだったんですか・・・先生は主戦場に・・・」


教室はまた一気に暗くなった。それはもちろん先生の、目の前のアンドロイドではなく、村塾の先生の身を案じて以外の事であるはずがない。


「心配するなと言うのは無理だろうけれど、自分だって無茶をする気は皆無だから、と伝えて欲しいということです。気骨のある男性ですね、確かにサムライにふさわしい、数少ない方でしょう」


「あの・・・もしかして、わざと丁寧な言葉を使っていらっしゃるんですか? 」

「ええ、そうですよ。私が生きていた頃、普通に会話するアンドロイドが主流になっていました。でも数年前、違反者との区別がつきにくくなってしまったため、アンドロイドの発する言葉が「丁寧な言葉のみ」とされてしまいました。私はどちらとも使うことが出来ますが、偽装をしなければいけませんから、このまま使います。

本当は止めてしまいたいんですけれど、失恋の記憶がよみがえってしまうので」


「失恋の記憶? 」急な話題の転換で生徒達はちょっとざわついた。


「ちょうど私があなた達くらいのことです。学校全体で何故か「丁寧語を使う」事が流行ったんです。皆面白がって、いかにも不良少年のような子も使うので、それをきっかけに、そのこと仲良くなったりして、本当に楽しかったのです。そして私にとって初めての恋人が出来て、その子の家に招かれて、ご両親に丁寧な言葉で対応したら・・・」

「喜ばれたでしょうに」ママ子が言うと

「それが・・・「私の両親を馬鹿にしている! 」と怒られて、それっきりになってしまいました。私にとってはちょうど良いタイミングの流行のはずだったんですが・・・・・

何年か経ってその彼女に聞いた話ですが、両親から「何故、あんな言葉使いもちゃんとした男の子をふったのか」と責められたそうです」


「ハハハハハ!!!! 」教室は大笑いになった。

「ああ・・・そうか、遊びでやっていることを、両親にされたと思ったんだ」

「わからないでもない」

「でも・・・日本ではどうかな? 」

「この国では起こりにくい事象かもしれませんね、いわゆる「上流階級の言葉」もわざと使ったりしましたから」

「そうか・・・お国柄ってことですね」

「面白い、言葉でもそれぞれ違うんだな」


休み時間の教室へと一気に変貌した。

彼の持つ力を、僕たちはまた経験した、今度は全員で。尊敬というちょっと堅い言葉では無くて、広い、本当に大きなこの人の存在そのものを感じる出来事だった。

そして笑い声が静まった頃


「でも・・・あの・・・何故ここに? 先生の言葉を伝えるためですか? 」

一号が代表するように聞いてくれた。

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