第43話世界を悪い方向へと進ませるもの


「君が・・・・特法局のサムライか。私は日本人をサムライサムライと呼ぶのは好きではないが、君がかなり仕事熱心であったことは聞いている。

その君が、何故かね、私の記憶に捜査上重要な記録があったのかな」


「いえ、そういうわけではありません。

あなたにどうしてもやっていただきたいことがあります。あなたの知恵、判断力、注意力、それが研究では無い方向に向けば、きっと大丈夫だと思うのです。ほんの数年、彼らが大人になるまで」


部屋には、いぶかった沈黙が訪れた。

機械の音は一定であったが、その中で、彼は考えているはずである。

先生は自分のある種身勝手な願いが、さすがの彼にもわかりはしないだろうと、ほんの少しだけ、嫉妬めいた意地悪な謎解きをさせていた。


しかし、やはり彼の心に直結した頭脳は、先生の想像を超えていた。


「彼ら・・・私が話をした日本人の子供達のことか? 君の仕事には直接関係ないだろうに」


「大ありなのです。実は二日ほど前、あなたの救ってくれた男の子、今は大学生になっていますが、彼が怪我をしました、原因はアンドロイドの爆発です」


「アンドロイドの爆発? その現場に居合わせた? そんな可能性はあまりにも低い・・・まさか!!! 」


「そのまさかです、さすがですね、よくおわかりです」

先生としては素直な反応だったが


「どういうことだ!!!! 君は!!!! 

もしかしたら君の仕事を子供達に手伝わせているのか!!!! 

危険な仕事を!!!! 

どういうことだ!!!! 児童労働違反だぞ!!! 

いや、君のやっていることは、子供に武器を持たせて戦争をさせた人間と何ら変わりは無いぞ!!!! それとも君は処罰を受ける前にここに懺悔にでも来たのか!!!! 」


 この彼の激昂に、先生はふと自分が怒られた記憶を思い返した。

小学校の低学年の頃、学校でふざけて、クラスメートのズボンを何人かで下げたことがある。

そのことを知った父親が、家で自分のお尻を嫌というほど叩き、その果てに自分のズボンを下げられて、そのまま外に放置された。

母親は顔をしかめながらも、その様子を黙って見ていた。


下半身が露出したまま、見上げた薄い蒼い空の色を、まだ覚えている。


「こんなにひどく人を怒らせたのはそれ以来だ」

 仕事を始め、上司から時たま叱責されることはあったが、あの時ほどの衝撃も反省もしはしなかった。


「今、あなたには現在の記憶が入ってはいないでしょうが、法改正で、以前から言われていたことが可能になります。つまり、高額な維持費を払えば、今のあなたのような状態で「心」を保管することが可能になったのです」


先生のその言葉を聞いて、怒りのボルテージは少なくとも半分は下がったようだった。




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