第39話 声
「危険だから入るな!! 」警官の声と、小さな子の泣き声、大人のうめき声。ショッピングモールには、最も似つかわしくない、瓦礫と煙。
「あそこで倒れているのは女の人、むこうは年配者」
今考えれば、冷たいほどに冷静だった。それは僕たちの目的があまりにも明確すぎたこと、この悲惨すぎる状況の中で、一人の人間の生存の証拠を見つけ出す事だった。
先生からモンさんに連絡があったのはちょうどそんなときだった。
「わかっています、今、皆で、できうる限り調べています」
「あ・・・ありがとう・・・正確な情報がわかり次第、連絡する。開の時計が・・・・・」
先生の言葉は詰まっていた。
「わかりました」覚悟を決めたようにモンさんは電話を切った。
「遅い、先生」と僕は心の中で思ったけれど、調べてみると、実は事件発生からここまで五分しかたっていなかった。正確な事実を伝える義務のために要した時間であることを、誰もが理解した。
「消去され始めている! 急いで!! 」
「わかった!! 」「ああ! あれ開さんみたいだったのに、消された!!! 」「どの辺? 」 「陶器店の横を映したの! 」
一斉に皆がそれに似た映像を捜したが、どこかで
「いや、別人だ・・・ああ・・・似ているけど・・・軽傷だけど・・・・」
そんな中、急に
「黙って!!! 静かに!!!」
そんなに大きな声を出すのかと思うほどの大きな声が二号から上がった。
でも顔はパソコンを向いているというより、顔をしかめ、音だけを聞いている感じだった。
「これ・・・この声・・・・メインだったら、最大音量も違いますよね」
「確か百まで行くよ」
「それにしてください!!! メインに映して!! 」
すると、そこには少し見なれた瓦礫と、バラバラになった新品の洋服がまだ煙の中で舞っている映像だった。
「く!!!」「うわ!!! 」
あちこちであがる悲鳴が大音量で聞こえる。でもその音に負けない様に二号は叫んだ。
「今から聞いて、小さいけど男の日本語らしいものが聞こえる!!! 」
教室は大音量の中静まりかえり、みんな集中した。
そして聞こえた。大きな声が遠くからだったけれど
「くっそ!!! 何てことを!!! 何のためにするんだ!! 金で幸せが買えるとでも思っているのか!! ガキか!!! 」
「開・・・・・」
「開さんの声・・・・」
僕も皆も力が抜けた様になった。
そんな中、モンさんがこの映像を素早くコピーしてくれた。
そのほんの数秒後、先生から連絡があり、開さんは時計をはめていた方の腕の骨折ですんだそうだ。
「すごいね、よく見つけた・・・本当に頭が下がるよ、ありがとう。私は・・・もういらないかな」
先生もちょっと涙ぐんでそう言っていた。このことで忙しくなったのだろう、長く話すこと無く、先生は仕事に戻った。
「開さんって・・・あんなことも言うんですね・・・」
「知らなかったろう? 開だって俺たちと同じだよ、残念? ママ子ちゃん」
「フフフ、今度会った時に「がっかりした」って伝えます」
「ハハハ」「良かった・・・・」
この日は、それで塾を引き上げた。事件が何故起きたのかを考えることは僕も皆もしなかった。
でも、時間は止まってはくれなかった。
開さんの無事と同時に、僕たちは大きな物を失うことになった。
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