第36話 ニッポンの風景
「今日は富士山がきれいだわ」
ママ子が窓を開けて言った。ちょっとだけ窓から体を乗り出すと、教室からでも見ることが出来る。もちろんここまで歩いて来た時に見たけれど、皆でゆっくり見るのは初めてだろうと思う。
「冬の空気できれいだから、良いよね。冠雪あるから、ザッツマウントフジだ」
「開に送ってやりたい」
「本当」
「確か・・・かぐや姫が月に帰るときに、帝に不老不死の薬を渡して」
「ああ・・・それを富士の山頂で燃やしたって」
何だかゆったりとした気分になった。まだ仕事の再開は無いし、法律が改正されるのも内部情報であって、先のことになる。でも再開すれば、違反者は今まで以上に「怪しい人間」を察知するだろうから、そのことに対する防御策を考えなければいけなかった。でも残念、というか本当は喜ばしいことなのだけれど、ブンさんが試験に合格し、無事警察官になることが出来た。だから今日は実はお祝いパーティーだ。
「半年間警察学校って大変ですね、しかも寮生活」
「ああ、この仕事もしばらく出来なくなる。でもさ、先生が上手くやってくれそうな気がするんだ! まあ、おめでとうって電話で言ってくれてさ、とにかく護身術はキチンと身につけておくようにって言われたよ」
「本来なら東京都は身長が高いから、ブンじゃ駄目だろうとおもったけど」
「先生の意向? 裏口? 」
「それは違うよ。身長は絶対じゃないからだよ」
「あ! 私たちちゃんとおめでとうを言っていないでしょ? 」
「いいの、ママ子ちゃん、自然にやろうよ、せっかくなんだし」
そしてブンさんが押し黙ったフーさんに
「おいおい、どうしたんだ、泣いてんのか? 」
というと、本当に泣き始めてしまった。もう一度三人で仕事をしたかったのだろう、それがかなえられないまま、ここを去ってしまう。
モンさんはそのまま東京の大学に、他のメンバーも学年が一つ上がるだけだ。でもやっぱり僕らも世の中も変わって行く、望む方向では無いけれど。そんな思いに浸っていると、鞄の中に入れてある個人用の時計がそれぞれの鞄で震え始めた。
「どこかで地震? 」「かもね、緑が一番鞄に近い? 」「ええ、見ます」
僕は時計の文字を空中に映し出した。そっちの方が楽だからだ。
「えーっと、海外のショッピングモールで爆発事故。原因はアンドロイドか?・・・・え・・・・この場所・・・・開さんの大学の近くじゃ無いですか? 」
「モン! メイン、開けよう! 情報収集だ!! 」
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