第35話 皆の直感


 それを聞いた直後のみんなの反応は、今考えれば「未来予知」に近かったのかもしれない、それは僕も一緒だ。ちらっとママ子を見たけれど、さっきよりももっと深刻な顔になっていた。

 一般に、といっても僕らのやっていることは一般的では無いが、

「永遠の命が条件的に可能になった」のだから、僕らの仕事は無くなって行くだろうと考えるのが普通だと思う。ではそのことによる「失職」を嘆いているのか、僕の、皆にとっての「楽しい村塾」が近々無くなることを恐れ、悲しんでいるのか。


そうでは無かった。

そして、意外にも、それは失礼かもしれないが、トラベラーズが話し始めた。


「つまり、相応の金額を公的な機関に払えば、人工知能の保管をしてくれるということなんだ。なるほど。そうした方が、悪い組織にお金が流れなくてすむ」

「まあ、それに、一代で財をなした人間の場合は、やっぱり並外れた発想力と行動力がある。データーとして残すのは・・・諸手を挙げて賛成とは言いがたいけれど・・・・

でも宝くじの当選金額以上を支払わなければいけないだろう。メインテナンス代として」


 冷静な分析だった。


昔、いわゆる大金持ちの違反者は、ダヴィンチ法を批准していない国でアンドロイドとして生活していていたらしい。国際法とはいえ、その国での本格的な捜査、逮捕は難しいことだった。

しかし、整備には専門の人間が必要になるので、海外から呼び寄せた時に「一網打尽」にしたそうだ。つまり、そのうちの誰か一人でも批准した国の人間であれば、犯罪者となるのだから。

事実が明確になった後、現在でもそうだが、アンドロイドの残された資産は没収されることになる。


「金持ちだけが永遠の命を得られる・・・・いや・・・違うな・・・何だろうな、この違和感ってヤツかな」

ブンさんはそう言った。ふと、開さんの声が記憶の中によみがえった。


「ブンに会ってね、本当にわかったんだよ。この世の中には「成績が悪くても、ものすごくかしこい人間がいる」って。僕は、マミちゃん以上の感の持ち主だと思うんだ・・・・」


本当にブンさんはすごいと思う。本人はそのことを言わないけれど、

実は彼は「報酬を前借り」して家族を養っている様な状態だという。明るくて、そんな所は全く見えない。


「資産家が、一方的に法改定を求めたって感じじゃ無い。確か何年か前、海外でありましたね。「永遠の命を買わないなら、お前の会社に悪いことが起こるだろう」って脅迫文を送られたことが」

フーさんも的確だった。さすがにいつも三人でほぼ「アイコンタクトだけ」で仕事をしている彼らだから、お互いの考えもわかるのだろう。


そしてブンさんがまとめるように話した。


「日本は、税金のシステムと富士山噴火で、極端な大金持ちはそれほどいない。外国は多いけれど、数は限られている。違反者がアンドロイドとして生まれ変わるためには、生前に色々とやらなければならないことが山積みだ。それを国際法警察はもう熟知して、監視システムもあるから、違反者を未然に捕まえることが出来る状態なんだ。だから先生は日本に帰ってきた。

でも、これから世界各国で、劣悪な違反者が増えそうな気がする。だまされている事にも気が付かないような、そして・・・質の悪いアンドロイドの」


 危険の増大が待ち構えている、それはそうなのだろうが、この雰囲気はそのためだけでは無かった。


むしろ二週間後に起こった、僕らの人生を大きく変える事件のためだった。

塾が大パニックになるほどの。


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