第33話 選ばれた理由

 

 僕たちが何故この仕事をしているか、それは極単純で、この仕事上、最も大切なこと。つまり「秘密を守れるか」と言うことに尽きる。


 あの、永遠に生きることの出来たかもしれない人物に救われたのは、きっと何人もいる。

しかし彼が今もどこかで、世界中で起こっているとても小さな戦争を食い止めるという、大きな役目を果たしている可能性は極めて少ないような気がする。

つまり「彼はこのもう世に存在していない」と僕は感じている。そしてこのことも僕らにとっての「暗黙の了解」として、話題にはあげない。

みんな根本的な部分で似ているのかもしれない。


 先生は僕らに直接会い、この仕事が出来るかどうかを判断して入塾させた。開さんに聞いてみたけれど「途中で止めた人間」はいないそうだ。

だけれども、不安はあったらしくて、最初の頃は「色々大変だった」と高校生達は話している。


「先生の人選は感心するほど完璧だよ、緑。もしかしたら五十人くらい子供がいるんですか? 僕たちのことをよくわかっているみたいですけれど? って聞いたことがあるんだ。そしたら「海外でも受けそうなジョークだ」って言っていたよ」と笑っていた。


 とにかく僕たちは事件から一ヶ月以上、塾に缶詰状態だった。まあそれが本当だけれど、とにかくここにいる人間にとって、勉強は勉強でやっておく必要があった。

親の手前、隠れ蓑にするため、そして将来のため。

僕たちはプロのスポーツ選手を目指しているのでは無いのだから。


「警察学校に入って特別警察って道はかなり特殊だもんな。高性能の翻訳、通訳機能があるのに、外国語ペラペラじゃなきゃいけないって・・・もう・・・」

ブンさんは、ぼやきながら英語の勉強をしていた。先生は日本人には珍しく、主要五カ国語の日常会話が可能なのだそうだ。

でも先生曰く「自分は外国語は好きじゃ無かった」そうなので、先生がくれる課題はかなり実践的な物だ。だから皆、成績は急激に伸びはしなかったものの、英語の先生から「よく知っているわね、その言い方」と関心された。

その期間、僕たちは「息抜き」と称して交代で外に出た。そして散歩道を歩いたり、町を自転車でぶらぶらしたりして観察をした。アンドロイドの数が約10%程減って、人間の行動を取るアンドロイドが皆無になったというのが、僕たちの結論だった。先生にもそのことを報告すると、

「君達より働いていない大人はたくさんいるだろうね」という文書が帰ってきた。

 

 でも、危険な、愚かな行為も数多く見た。それはアンドロイドをぐるりと取り囲んだ若い子、まあ僕らと同じ年代だ。

確かに一般の人間がダヴィンチ法の違反者を見つけた場合も、報奨金が出るので、それを狙ってのことだろう。

でもあの様子が一人をいじめている姿にしか見えなくて、すぐにアンドロイドを助けに行ってやりたいと思ったけれど、僕たちは絶対に手が出せないことだった。


しかし塾に帰ると、


「本当に馬鹿な奴らだな、アンドロイドの行動を故意に邪魔したら、とんでもない額を請求されるのに。アンドロイドがスーパーで千円買い物するのを遅らせただけで、何十万も払うことになるって・・・まあ、自業自得かな」


「しかも、あれ最高級の物よね、ちょっとでも傷をつけたら大変でしょ? 」


「アンドロイドのレンタル会社のものだから、車みたいだよね」


「アンドロイドを倒して、逃げたのも見たけれど」


「本当に馬鹿、子供だから記録が残らないって思ってるんだろうか。

幼児以外、数人に囲まれた時点で、アンドロイドは映像を記録し始めるのに」


 そして案の定、全国的にアンドロイド基準、保護法に抵触(難しい言葉だけれど、僕はここで習った)要は、ひっかかって、中高生の親達が、とんでもない額を要求される事態になった。

さすがにこの事で、ブームのようなアンドロイド狩りは終わりを告げ、それを見届けるかのように、開さんは旅立っていった。


ブンさんが代表してお別れを言いに行ってくれた。


「気をつけて動けよ、って開に言ったら、「ばれてたか」ってさ・・・みんなとはいつか絶対に会おうって」


 僕らは開さんの住所も連絡先も知らない、お互いのためだ。

ただ知っているのは、通っている大学名だけだった。



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