第31話 弟
僕には小学校二年生の「
幼い故なのか感が鋭いので、僕が何をしているのか悟られないように気をつけているのは、実は出水に対してだ。
そして夕食前に二人でテレビを見ていると、その日一番の大きなニュースに、僕はしばらく固まってしまった。きっと一分後、今度はチャンネルを次々に変えて少しでもこの事件の「一般社会に流布している最大限の情報」を集めようとした。
「お兄ちゃん、珍しいね。天気予報以外のニュースをそんな風に見るなんて」
その言葉にも驚いたが、やはりまだ小学生なので
「お母さん、レオナルド・ダ・ヴィンチ法って何? 」
キッチンで夕食を作りながら
「永遠の命を禁じた法律・・・ああ、まあ、お兄ちゃんに説明してもらって・・・」
とちょっとため息交じりにお母さんは答えた。
「出水、もし人間の脳の全てをデーター化して保存できたら、人は永遠に生きることが出来るだろう? それを禁止した法律だよ。そんなことをしたら、アンドロイドがとてつもなく増える。でも元々が人間だから、アンドロイドのように、「頼んだことを必ず責任を持ってやってくれるか」と言ったら、わからないだろう? だってロボットと違ってプログラミングされているわけじゃないんだから」
「そうだね、でも・・・死ななくてすむでしょ? 」
「でも機械だからメンテナンスを必ずしなければいけない。その費用は誰が出すのか、出し続けるのかと言う事だよ」
「百万円じゃ足りないの? 」
「百万円じゃ・・・車も買えないだろう? 」
「そっか、レンタルロボットを借りるだけで、何万円もかかるんだよね、CMであるもん」
「そう、出水はかしこいね、ああ、ほらマンガの時間だよ」
「うん! 」
テレビの前で、今度は出水が動かなくなった。それを見て僕が台所のお母さんのところに行くと
「ありがとう、緑、出水にはあんまり聞かせたくない話だから・・・・・」
この事件は、各局のアナウンサーほとんどが、侮蔑的な笑った表情で
「百万円で永遠の命が買えると、被害者であり、加害者である男性は思ったんでしょうか」
そう語った上で
「奥様が「主人が老後の資金を勝手に使おうとしているから、どうにかして欲しい」と警察に訴えた事から発覚したそうです。警察はこのロボット会社はペーパー企業で、余罪が数多くあると調査中です」
と今度はすらすらとニュース原稿を読んだ。
「奥さんが旦那さんをね・・・」
「お母さんならどうする? お父さんが同じ事をしたら。
その旦那さん、もしかしたら、ちょっと痴呆症が入っていたかも」
「そうね・・・・」
僕らはヒソヒソと台所で話した。お父さんが帰ってきてからも、なるべく出水の前でニュースを見ないよう、話題にあげないように心がけた。
出水が眠って、三人で何となくほっとした。
全国の家庭ではこんなことになっているのだろうと思った。
お互いのことを深く思い合った夫婦と、どうも、そうでないように見える夫婦、同じ違反者でも両極だ。
明日はママ子も加わった、全員会議になるだろう。
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