第30話 心と季節


 開さんの講義が終わって、二回、二人で仕事をしたけれど、すぐに


「緑は僕と同じ、一人で動いた方が良いね」


と、ママ子と初めて会ったときには、もう僕は一人で仕事をしていた。

その時、ママ子がとても驚いた顔をしていた理由は、しばらくたって仲良く話す様になって聞いた。


「だって、皆とすごく自然に話していたから。ずっと前からここにいたみたいに。どんな人かと思って不安だったけれど、安心以上だったわ」

僕にとってはママ子も先輩になるので、心の中では敬語で話しているつもりだ。二人で一緒に仕事をしたことはまだ無いから、その機会があれば、まあ良いなと思っている。それに皆が言うほど僕はママ子を意識はしていない。確かに現時点では「誰よりも一番話す異性」であることには間違いないけれど。


とにかく、村塾での人間関係で「嫌な思い」は皆無だ。皆の両親も「この塾に入れて良かった」と言っているそうだ。

まさかそこで重要な仕事をしているなんて考えもつかないだろうし、僕の親も、学校の成績よりも、子供が安心できる場所が出来たことに素直に喜んでいる。


「人によって生まれた環境も、その能力も違います。そのことを嘆いても、残念ですが、前には進まないでしょう。今のあなたは、それが理解できる年齢に達しています。あなたは自分が人より劣っていると考えている様ですが、それは違います。あなたは実は意外に数が少ない

「考えることの出来る人」です。


恵まれた人も、そうでない人も、誰でもやがては「自分を決定する時」がやってきます。その時に全てを流れに任せるのではなく、流れに乗るとしても、あなたの意思で乗らなければ、人生はきっと上手くいかなくなる。不必要に自分も回りも苦しめることになるでしょう。

考えてください。もちろん、あなたの心、気持ちのこともですよ」


ブンさんはあのアンドロイドからそう言われたという。



一時間ほど、僕は公園のベンチに座ったままだった

「風が冷たいな、気温も急に下がった、天気予報では雪になるかもしれないって言っていたっけ」


 天気予報の確認は僕らの仕事では必須だ。雨の日に、元人間のアンドロイドが動くことはほとんど無い。

急な買い物を頼まれた本物のアンドロイドが、

「雨の中お買い物なの? 」と小さな子供に話しかけられている光景は、今の日本の穏やかな日常だ。


「あの時は暑くて、心が冷たくて、今は真逆になっているのかな。でも僕の人生は、これからまだまだ何か起きそうな気がする」


トラベラーズが神童で出会ったアンドロイドと女性、

違反者であるけれど、僕は二人に敬意を持つことが出来た。

でも家に帰り、二ユースを見ると、ため息のような報道が各局から流れていた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る