第29話 非合法なゾンビ
レオナルド・ダ・ヴィンチ法の違反者を何故取り締まるか。
それは違法故に、これで得た資金の流れが不透明になり、結果経済が円滑に進まないからである。詐欺、違法薬物と同じ事だ。
僕が村塾に入って一週間ほどは、ずっと開さんから、中一にしては高度な話を聞かされた。そして注意事項も事細かだった。
「緑は感が良いみたいだからわかると思うけれど・・・実はこの前、僕はちょっと危ない橋を渡ったんだ。結果は正しかったんだけれど、先生から・・・というか、今まで親にもこんなに怒られたことがないというくらい叱られたよ。
「行って殴りつけたいくらいだ! お前のせいで全員が死ぬかもしれない! 今度やったら、俺の刀でお前を斬り殺すからな!」って・・・・
先生の方がひどいと思うけれど・・・」
開さんは苦笑いをした。
「だから、緑、僕のように功を焦って危険な事に飛び込まないようにして欲しいんだ。確かに迂闊だった。その時は「自分が殺されたって! 」なんてどこか格好つけた気でいたけれど、確かにそうだ。僕が何をしているかばれたら、おしまいだよ・・・でもね、そうなったときのためのプログラムも用意されているんだ。この前、先生から見せてもらった。すごく考えられているんだ。
先生とは直接会うことがほとんど無いけれど、僕たちをこの仕事の一員にした時から、全ての責任は先生が負うことになっているみたい。
「独断でやった」という具合でね」
「何故、そんなことになってしまったんですか? 」
「何故だと思う? 」
「何故? 先生の事は知られているんでしょ? 」
「そう、それはどこから漏れる? もちろん違反したアンドロイドの記憶からの可能性も高いけれど、もっと確実なもの。その仕事をしている人たちの「正確なリスト」はどこにある? 」
「それは・・・警察、国際法特別警察に・・・まさか! 」
「そう、そのまさかだよ。違法アンドロイドを作る人間達が、違反者から得た資金を賄賂にして、国際警察のリストを入手した。漏らした人間は処罰されたけれど、知られた情報はどうしようもない。組織は優秀なアンドロイドハンターに対応策を取るようになってしまったんだ。だから先生は一線を退いて日本に帰ってきた。しばらく警察の仕事をしていたけれど、今度は日本が噴火後の景気回復から違反者が増えて、取り締まらなければいけなくなった。
でも先生は動けない、顔を変えても骨格が残る。ICチップを変えてもその情報が漏れれば同じ事だ。
彼らだって馬鹿じゃない。警官を殺せば問題になるけれど、調査が入る前に頭脳部分さえ入れ替えてしまえばいいんだ。例えば緑が観光地で会ったロボットと人が怪しくても、調査時に頭脳が違っていれば何の問題も無い。アンドロイドの一部の記憶が欠損していても、知らぬ存ぜぬで通せば良いんだ。
「複雑な機械だからそんなこともある」
でどれだけ逃げられたかわからないって先生が言っていた。
いくら状況証拠を揃えても、自白も裁判も難しいんだよ。
それにね、どうも世界的に違反者を取り締まりにくくなってきているんだ。
汚職が国の中枢に至っているという場合もあるらしい。どうしても大人は金に目がくらみやすいのかも」
「で、僕らがと言う事ですか」
「そういうこと、緑は物わかりが良いね。報酬額については細かな規定があるんだよ。先生が決めたのかわからないけれど、わかりやすく言えば、マミちゃんみたいに、家族旅行中、たまたま隣に座ったアンドロイドの
「動作が人間ぽい」と先生に連絡して、判明した場合は報酬が高くなる。つまりそれまでに下調べも何もしてないのに発見できたわけだから、経費がゼロで捕まえられたと言う事だ。納得がいくかな? 」
「わかります、確かに僕が最初にやった事は「バレバレ」でしたものね」
「こちらが大袈裟に動けばゾンビを作っている奴らは嗅ぎつけるからね」
「ゾンビ・・・、まあそれに近いですか」
「ああ、でもコレは使わないで。いわゆる国際ハンター達が使う言葉だから」
仕事とは色々あるものだ。
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