第26話 探していたもの


「あの・・・僕アンドロイドが好きなんです、特にあなたのフォルムはとても美しいと思うんです。日本人が開発したからでしょうか、あなたの頭の大きさと体のバランスが絶妙です」


ニコニコとした顔で、お茶屋さんの前にある、赤い布がかぶせてあるベンチに座ったアンドロイドに言った。さっきまでこのアンドロイドの横には別の人が座っていた。中年男性で、一分前に席を外し、店の奥に方に向かっていった。きっとトイレだろうと思う。

僕の問いかけに、アンドロイドはすぐには答えなかった。

しばらくして

「ありがとうございます」

かなりゆっくりと言った。そうしていると連れの男性が帰ってきて、驚いたように僕を見た。そして迷惑そうな、また困惑した様な顔をしたので、

「すいません、好きなアンドロイドだったので・・・失礼します」

とその場を離れた。

先生とは約束通り、三十分後に待ち合わせの場所で再会した。


「どうだった? アンドロイドは」

「妙です、一緒にいた人が特に」

「ほう・・・・」


先生は感心したように僕を見てくれた。そのあと先生の車に乗って、別の所に出かけた。そして同じようにアンドロイドに話しかけ、一緒にいた人間の同じような表情を見た。

先生が運転する車の中で、僕はこのほとんど差の無い二つの出来事を、出来るだけ詳しく話した。


先生はほとんど自動運転に任せることはしなかったので

「あの・・・ずっと運転していらっしゃるんですか? 話さない方が良いですか? 」

「いや、そうしてくれた方が助かるよ、睡眠防止にね。私は車の運転が好きでね、コレは自動運転は逆に出来ないよ」


「わあ・・・すごい・・・特別車・・・」

そうしている人はもう日本では極めて少ない。レーサーか、それを目指す人ぐらいしかいないと言われている。後はパトカーを運転する警察官だろうか。


「緑君、君はかしこいから、私が何をしているか薄々わかっていると思う。

出来れば・・・私のやっていることを手伝って欲しいんだ」

ミラーに映った先生の目は、強く真剣だった。でも威圧的なところはどこにもなかった。しかし何故か、すぐに「はい」とは言い出せなかった。


「もし、良かったら、明日村塾というところに行って欲しい、そこで詳しい話をしよう」


「わかりました」

それは不思議と素直に言えた。



 家に帰り、僕はもちろんアンドロイド以外のことを家族に話した。

「楽しかったのね、よかった」

「今度皆で行こうよ」

「そうだな、お前も大きくなったから楽しめただろう」

「先生がご両親によろしく伝えてくださいって」

「そう、気にかけてくださって有り難いわ」

夕食は夕食でキチンと食べたのが自分でもおかしかった。



「村塾か・・・どんなところなんだろう」


わくわくするような、怖いような、夏休みにぴったりの出来事だと、僕はちょっと笑いながら眠りについた。



次の日、東京でも行ったことのない町を歩いていた。


「えーっとここだよね・・・・塾のシールが何となく残っている。本当に大丈夫なのかな・・・・」


 夏の強い日差しで、中に電灯がついているのかさえわからない。大体学習塾は大きな看板と、目立つ成果を近所に掲げている。それはずっと昔からだ。リモートの塾もあるけれど、結局学校のように一所に集まってというものが多い。でもここは塾なのか、ちょっと怪しげな新興宗教みたいにさえ見える。

僕は恐る恐る二階にあがる小さな階段を上った。そして扉の前に行くと

塾にしては不釣り合いのような頑丈そうな扉があった。セキュリティー強化のためとはいえ、ちょっと大袈裟のような気がした。

ベルのような物がないので、ノックをしたが、この音が反対側に響くのかと思う程、本当に厚そうだった。

すると、すっと、ドアが僕の方に向かって開いた。


出迎えてくれたのは、かしこそうな男の子、高校生だと思った。


「どうぞ、さあ、中へ」


ちょっとせかされるような感じで言われたので

僕は急いで中に入った。

勢いよくドアがバンと閉められたので、僕は塾の中にいた数人よりも、そのドアマンの方をあらためてみると、

笑いながら彼は明るく言った。


「村塾へようこそ!! 」


 

その言葉に僕は驚いた。


そして彼の言葉に笑った数人を見たとき、何故か急に、僕は涙が止まらなくなった。クーラーが効いていたけれど、ここは温かくて、初対面の僕を自然に迎え入れてくれる場所だと思った。

塾にいた人達はそんな僕の姿を見て、誰も笑ったりしなかった。理由はどうしてか、何となく僕にもわかった、


彼らもきっと同じような経験をしたのだということが。


そして僕が探し求めていたのは

「この場所」だったのだと思った。





  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る