第23話 同時に、多発的に
「あれ、どうしたんだろう? お父さんが家に帰っている」
玄関に靴がある。まだ仕事が終わる時間ではない。僕は何かあったのかと急いで居間に行った。
「緑・・・」
お母さんとお父さんは悲しげに僕の方を見た。
「何かあったの? 」
「いや、何かあったのはお前の方じゃないのか? 」
お父さんは見たことのないような真剣な表情だった。
「緑、お前学校でいじめらているんじゃないの? 傘、いつも忘れて借りて帰るって言っていたけれど、お母さん・・・お前の言葉を鵜呑みにしてしまって・・・」お母さんも苦しそうだった。
「あ・・・その・・・でも・・・何だか今日は少し気分も良いよ。
あのね、実はさっきアンドロイドと話したんだ。すごく気持ちをわかってくれるというか・・・」
「まあ」
「ああ、それが原因かな・・・」
「どうしたの? お父さんもお母さんも」
「実はさっきニュースでね、隣の中学で恐喝事件があったの、被害額が百万単位だったらしいの。ちょっと離れた学校でもそんなことがあったらしくて、お前の様子が変だったし、お小遣いも、使ってる割には好きな物を買っていないようだったし」
「まあ・・・傘代かな・・・」
「緑・・・お父さん達に心配をかけたくないと思うお前の優しさは有り難いけれど・・・」
二人が一緒に涙ぐむ姿を僕は初めて見た。でもそれは突然の電話で遮られた。
「あ・・・はい、先生・・・」
僕の担任からの電話だった。
彼の、アンドロイドの仕事に対する迅速さに、驚きと微笑みしかなかった。
担任の先生からは「いじめ」に気が付かなかったことに対する素直な謝罪があった。「どうして言ってくれなかったのか」との問いには「先生の部活の生徒ですから」と素直に、ちょっと冷徹にも言った。それは今までの恨みと言うよりも、
「僕と同じ状況で孤立してしまう生徒のため」でもあった。
とにかく、心はどこか全てが終わってしまったように穏やかだった。
「どうしたら良いと思う? 」
先生も寝耳に水のような事だっただろうから、仕方が無い言葉だった。
「特にどうして欲しいというわけではないです、僕は普通に学校生活を送りたいだけです。だから大袈裟な謝罪も何もいりません、普通に戻ることはすぐには難しいかもしれませんが、僕は出来るだけ普段通りに学校生活を送ります」と答えた。話が終わり、両親は心配だけれど、ほんの少し安心したような顔になった。
「あのね、お父さん、お母さん、アンドロイドが話してくれたんだ」
今度は二人が僕の話を真剣に聞いてくれた。
「そういえば、二、三年前にもこんな事があったわね、もしかしたらその時も
緑の会ったアンドロイドさんが手助けしてくれたのかもしれないわ」
僕は知らなかったけれど、色々な学校でいじめが発覚し、やはりゆすりのようなこともあったという。父兄の間では有名な話だったらしい。
そう、その時にアンドロイドに会ったのが、開さん、ブンさん達、トラベラーズだったのだ。実は小学生のママ子も出会っていた。
そしてみんな、僕のような精神状態だったのを、アンドロイドに救われたのだ。
言われたことは人によって色々違い、また「外側」も違っていたけれど、
「同一人物」であることは間違いなかった。
そう、その時に薄々皆気が付いていた、
「このアンドロイドはもしかしたら人間だったのかもしれない」と。
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