第17話 ベッドという椅子
部屋は大きなものではない。二段ベッドの手前のスペースは、人一人が横向きになるくらいの広さしかなかった。
「座ろうか・・・」二人は下段ベッドに座り、しばらく何も言わなかった。でも一人が小さく嗚咽を始めると、それにつられたように押し殺した二つの泣き声が、小さな部屋を満たした。
それは一年前、神童が本格的に走行する前から、度重なって特集されたことだった。
「寝心地の良い電車」はある種不可能な計画であった。
立案は約二十年ほど前からあったが、難しすぎる事なので、中止の危機は数え切れないほどあった。それを乗り越え、とうとう形になる寸前、立案者の一人でもある開発者が亡くなった。しかも彼は数年前に、息子を事故で失うという悲劇もあった。しかもその息子さんも親と同じエンジニアになる事を夢見ていた。
神童をダジャレだと多くの人は思っていたが、実はそうではなかったのだ。
息子の死を乗り越え、ようやく形になった夢の電車、その走る姿を見ることなく、彼は息子のところに行ってしまったのだ。
「責められない・・・責めること何て出来ない。それにあの・・・女の人は・・・覚悟の上やっている感じだ。刑務所に入れられることをわかっていて・・・」
「悪い方ばかりに考えるのは止めようよ、ほら、とても優秀なエンジニアじゃないか、独創的ですごかったらしいから・・・・もしかしたら彼も「被験者」かもしれない」
「そうだね・・・そう・・・そうかもしれない・・・」
「ほら、開さんだって言っていたじゃないか。「海外ではおとり捜査も行われている」って」
「うん・・・で・・・どうする? 」
「どうしよう・・・・」
二人は考えた。それはある種冷静にであった。
もし、今すぐ連絡をしたら、先生は最速で東京駅に待ち構えているだろう。
だが「証拠となる決め手」を走行中に発見することは極めて難しいはずだ。
立ち居振る舞いも完璧なアンドロイド、彼から「小さなほころび」を見つけ出すには、長時間一緒に過ごす必要がある。
では一緒に過ごしたのは誰か。
ルーには簡単過ぎる推論であろう。
「質の良いアンドロイドだ、だとすれば「ある程度の組織の物」と言う事になる、アフターケアーもある程度はするだろうね。
言葉巧みに金だけはせしめて、やりっぱなし、後は無責任な連中じゃない」
「アフターケアーをするのは、正確な証拠隠滅が出来るからと、動いている警察の人間の情報を得るためでもあるから。
もし僕たちに疑いがかかれば、村塾で何をやっているかは芋づる式だろうね・・・だとすれば」
「危険なことには首を突っ込むな、って先生も言っていたし、開さんも僕らにはしつこいくらいに言っていたよね。」
「明日、元々ママ子ちゃん抜きの会議だろう? 」
「話そうか、みんなの意見を聞くって・・・それも良い方法じゃないかな、ちょっと無責任な気もするけれど」
「そう、しようか。本格的に皆と全国展開しなきゃいけないんだから」
「そうだね・・・ちょうど眠くなってきたよ・・・」
「ああ、ごめんね、ここベッドなのに座って。どう、二階変わろうか? 」
「ありがとう、でも・・・もう眠いよ、おやすみ」
「おやすみ」
東京駅につくまで、二人は眠ったままだった。
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