第15話 趣味という救い



「僕らがこの仕事をやり続けられるのは、この趣味があるからかもしれない、電車に乗れば、そのことに没入できるから」

「確かにそうかも、特に今日は最高だね! 例のアイス買う? 」

「反対はしないよ、でも一個四百円って・・・まあ・・・神童に敬意を表するか・・・でも・・・」

「そうだね、お腹がすいたら最悪かな、やっぱりおにぎり四個にするか、パンにするか」

「ウーン・・・」

構内の売店で楽しく悩み、そしてホームに行くことにした。

神童の発車まで一時間以上あるが、二人は退屈しなかった。自分たちが逮捕させた大人のことは、やがてホームに入ってくる神童が、もうほとんど消し去ってくれていた。他の乗客たちも多かれ少なかれ、嫌なことが忘れられているのだと思う


年配の鉄道マニアも、家族連れも、少し寒くなった事など気にもとめずに、文句も言うことなく待っていた。


「おー! 」


皆何度も写真や動画で見て知っているのに、やはり「本物」がホームに入線してくると、おとなしめの、夜にふさわしい歓声が上がった。

そうして迎えられた神童は、四角く、昔の顔をしていた。普通路線を走るため新幹線のような特殊な形は必要ないのだ。

一方トラベラーズは、小型カメラのシャッター音をずっと響かせていて、自分の目で見ている時間よりも長かった事に、個室に入ってから気が付いた。


「本当だ! 何コレ? 電車? 」

「すごい! 作った人たちが本当に神だよね!! 」


体に小さな振動がごくたまに感じられるだけで、舗装したての道を自転車で走っているような滑らかさだ。


「夜は更に免震装置が働くんだろう? 」

「コレでも十分だよ!! 」


二人は神童の話ばかりで楽しく盛り上がった。結局、仕事の話をすることなく、仕事の疲れを癒やすように眠りについた。



「あれ、まだ戻ってこない」

この部屋は小さな二人部屋で、二段ベッドになっている。三十分程前に

「ごめん、起こした? ちょっとトイレ」と一号が部屋を出て行った。

「どうしたんだろう、体調が悪いのかな」二号も外に出た。

「通路も通りやすい、どういう構造なんだろう、大まかなことしか発表されていないからわからないけれど」とにかくトイレに行ってみたが、どこも空で人気も無い。

「夜中で遠い反対方向に行くとは考えられない、まさか、ラウンジ? 」


 両窓側にカウンターがある車両で、椅子に座り、コーヒーを飲んだりすることが出来る。朝は風景を眺める人がいるが、夜はただ暗闇とライトの流れだけになってしまうし、この「神童」では尚更いないはずである。


「まさか・・・」


とは彼らに常につきまとう感情である。

違反者を取り締まる秘密警察のような自分達、検挙率が上がっているのを「違反者から金を巻き上げている人間」たちはそう快くは思っていない。


「一応連絡を取ってみよう」と時計に連絡をすると

「今ラウンジ」とかなり落ち着いた声が返ってきて、安心した。


そうして、二号もラウンジへと向かった。



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