第12話 不可能な列車
トラベラーズの二人は「一号、二号」と呼ばれている。
一号の方が背が少し低く、二号の方が高いが、それほどでもなく、塾の仲間も後ろ姿では時々間違えたりする。最初はもちろん名前で呼ばれていたのだが、冗談半分に開が言ったのを、本人たちも気に入って使うようになった。
けれど
「僕が一号でいいの? 」とやはり一号が気を遣って言ったので、二号の方は「僕は昔から№2が憧れなんだ」とウソではない本心を言って、二人で笑い合った。
喧嘩をしないわけではない。お互い好きな車両を熱く語りすぎると、言い争いになるが、二人にとってはそれが多少のストレス発散にもなっていた。
だが、今回の旅の予定を立て始める頃から、先生直々に言われていた。
「君達の力を本格的に借りなければいけない時期が来ている。もしかしたら二人で旅行を楽しめるのは最後になるかもしれない」と。
その先生の思いからか、二人は憧れの最新式寝台車に乗れることになった。
「本当に良いんですか? 先生!!! 」
「まあ、手を回したけれどね、コレが最後だと思って欲しい」
「ありがとうございます!!! 」二人は電話の向こうの先生に、深々と頭を下げた。
最新式寝台列車「神童」
この電車が世に登場して、一年がたった。
列車に神童とは可笑しいのだが、コレはダジャレだ。
寝台列車は基本的に寝心地の良いものではない。それはどうしても車輪とレールの「振動」があるからだ。
だがこの列車に乗った人間はすべからく
「本当に信じられないくらい揺れないんだって。この電車を作った人はまさに「神」だよ。神童の名前は乗ってみたら本当に、冗談じゃなくふさわしい名前って思うよ」
と言う。
寝台列車で人が眠るわけだから、揺れは横たえた体全体へと伝わる。それ故に多くの人にとって熟睡は困難であった。しかしながら、旅行という特別な日の興奮は、その睡眠不足も打ち消す。
非日常とはそう言うものなのだろう。
だがこの列車は本当の「動くホテル」を目指し設計された。不可能と思われた列車での寝心地の良さを追求し、知恵と技術の粋を集めて実現した列車だった。
「空海」はもちろん食事も用意されており、乗客の睡眠不足解消のため、場所によっては夜の駅に止まったままのときもある。また列車の清掃のため、数日は最高級ホテルという日もある。
しかし「神童」は機能優先で、便利な動くホテルは毎日ずっと走り続けている。
その驚異的な振動のなさを体感したいがため、客室は空海の何倍もあるにもかかわらず、予約の取れない列車の二番手なのだ。
トラベラーズの二人もこの電車に乗れると聞いた瞬間から大興奮だった。
「どうしようか、親にも内緒にしようか」
「いやいや、それは無理かもしれない、ばれたときにやっかいだよ」
仕事とは無関係の話に大興奮だった。結局、親兄弟だけがそのことを知るだけで、実は塾のみんなにも「神童に乗る」とは伝えていない。
乗れただけで、電車のことを知らないクラスメートからさえ羨望の眼差しを受ける、それほどの列車なのだ。
だが機能優先なので、食堂車、売店などはなく、乗客は食べ物を持って乗るというところは、一般の寝台列車と同様だった。
「しかもさ、旅の最後が神童って良いよな。仕事の疲れもとれそう! 」
「俺たち会社員みたいだね」
楽しい旅は始まった。最後に考えられないような幕切れがあるとも二人は知らずに。
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