第9話 トラベラーズ

 

 次の日の朝、僕は時間通りに塾に着いた。


「遅いぞ、緑」

「先輩方がこんな時だけ早いんじゃ無いですか? 」

「こいつ! 」

「ハハハ、緑、帰ってくる度、大人になってないか? 」

「それは大袈裟だろう、二泊三日の旅だったろう? 」

「そっか! 」


 塾の中ではちょっとした宴会ムードになっていた。


「旨い! この魚の煮物最高! さすがに国際A級トラベラーは違うよな」

「言わないで、それは親がそうだからで、僕たちがそうじゃないんだから」

「そうだよ、今は親の七光りで準A級の旅行者なだけだよ」


 トラベラーズの二人は兄弟のようによく似ている。一見どこにでもいる大人しい感じだけれど、高二なのに大学生に見える。それは色々なこと、家庭環境、自分の能力、やりたいことがキチンと分析できているからかもしれない。


 彼らは自分たちが言うように「恵まれた環境」に育った。それは経済的なことだけでは無い。


二千年頃の世界的なウイルスの蔓延は、観光業に多大なダメージを与えた。だが観光で成り立っている場所は世界中には多くあり、そこが生き残るためには、色々なことを考えなければならなかった。


観光地で感染を広げないために世界が行ったこと、

それは旅行者のランク付けだった。


つまり、感染症に対するワクチンなどをキチンと接種し、旅行者が必要以上に

「色々な所に行かない」ことも基準の一つになっている。

「それでは旅行じゃない」と言いたくなるが、国際A級という人たちはそうなのだ。だから、国際ジャーナリストは世界を飛び回っているけれど、ほとんどA級ではない。その国の「触れられたくない部分」を取材することもあるからだ。


 国際A級所持者は、良い意味で、海外旅行中、現地の警察の手を煩わせるような事をしない旅行者なのだ。そして面白いことに国際A級が最も力を発揮するのは国内旅行だ。宿泊代、交通費なども格安になるという。そしてA級を持つ人の子どもは18歳になるまではそれに準ずる待遇を得られるが、それ以降は自分でレベルを上げていかなければならない。


「A級の子どもの苦労、ってあるんだよ」

「でも半分以上はA級をとれるってデーターがあるじゃないか? 」

「まず、旅行できるくらいお金を稼がなきゃ」

「25まで我慢出来る? 」

「そうそう、俺たちの軍資金が手に入るまで!! 」

「ハハハハ! 」


初めは楽しく話していた。


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