第4話 先手の法律
世界法の代表と言えば、百年前に成立したこの法律が真っ先に上げられる。正式名称は
「記憶媒体、及び非生命体を使用した、本人、または少数の人間の意思のみによる永続的存在禁止法」というらしい。
一般的には「レオナルド・ダ・ヴィンチ法」と言われていることが多い。だが、世界にはたくさんの国と地域もあって、歴史上、彼クラスの人間はそれぞれに存在していたから、違う呼び名で呼んでいるところもかなりある。
日本では、画家であり、発明家であり、科学者であったこのルネッサンスの巨人の名前そのままを使っている。説明するのにわかりやすいからだ。
つまり
「レオナルド・ダ・ビンチ程の皆が認める天才でなければ、アンドロイドにに全てを移し替えて、永遠に生きることは許されません」
と言うことなのだ。
法律が出来た頃は、きっとこんなことは夢のまた夢だった。
「不可能な法律を先に何故制定したのか」と当時の人は思っていたようだ。それはいわゆるハード「外側のロボット」の問題では無く、ソフトの面の「人間の記憶のシステムを完全に機械に置き換える事」が不可能だと考えていたからだった。
その当時から勿論、コンピューターもパソコンもあったが、当時のパソコンの頭脳は「中学生レベル」と言われていたそうだ、今中学生の僕にはちょっと失礼な気がするけど、しょうが無い。要はこの当時の物は、何かを検索しようとしても、不必要な情報がたくさん羅列され、その中から重要なものを探し出すのに時間がかなりかかったそうだ。
しかし人間の記憶のシステムは違う。頭の中から必要な情報を迷うことなく抜き出し、不必要な事はすべて消去していく。
例えばある本を読んだとして、その中の一部分だけを記憶する、ということは人間にとっては当たり前のことだが、これが機械ではできないのだ。
一字一句間違わず、またページ数なども情報として残してしまう。
同じ本を読んでも人によって印象的な個所も違う。
それが個性であり、選択の基準であるが、その個性を要は「数値化、数列化する」ことが不可能だったのだ。
しかしレオナルド・ダ・ヴィンチ法の成立により、皮肉なことに、このことに対する研究に火がついてしまった。脳の構造、それに限りなく近い機械を生み出す競争が加速された。
先生が若い頃には一時的に「脳水の様なもの」の中に機械を浮かべたアンドロイドもあったそうだ。当然液漏れが多発し、このタイプは今消滅している、と思う。
そして、この法律の適合者は今のところ誰もいない、世界にたった一人もいないのだ。
候補者は何人かいた。ノーベル賞受賞者や、極めて優れた芸術家、だがすべて断ったと言われている。
それはわからないでもない。なぜならその人が結婚して奥さんがいた場合、自分は永遠に生きられるが、奥さんはそうではないからだ。
ましてや子どもがいた場合は・・・である。
「レオナルド・ダ・ヴィンチに永遠の命があったとしても、ずっと創造的に生き続けられるのか」
そのことを議論している間にも技術は進み、「死なない憧れ」はむしろ一般の人に広がっていった。そして世界でポツポツ「違反者」が出始めた時期に、日本では大変なことになってしまったのだ。
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