男は馬鹿よ
二時間ほどで二人はホテルを出た。
「この後どうする? 夜ご飯でも一緒にどう?」
男は先ほどまでの熱を忘れられずひばりの腰に手を回す。憂さ晴らしで罪を犯した後のような不快感が、ひばりの肩を震わせた。
「そうねぇ」
ひばりは自分のそんな感情を悟られぬようスマホに視線を向ける。男に内容が見られないようひばりはスマホのロックを外し、新着メッセージを見た。メッセージを見つめ、ひばりは笑顔を浮かべる。
「どうしたの?」
そんなひばりの横顔を見た男は、何か面白いことがあったのかと期待し、ひばりに問うた。
「大学のお友達がこれからご飯行こうって誘ってくれたの」
「そ、そっか」
わざとらしくひばりはスマホを閉じた。
「返事しないの?」
男は余裕を取り繕いながら言う。
「うーん、断るのなんか心苦しくて」
ひばりは苦笑いをしながら胸元でスマホをぎゅっと抱きしめる。
「久しぶりに連絡くれたから嬉しかったんだけど、これ断ったらもう誘ってくれなくなるのかなって……」
しおらしくひばりは眉をハの字にし、男を見上げた。
「行っておいでよ」
そう言わざるを得ない状況に誘導されているにも関わらず、男は格好をつけてひばりの頭に手を伸ばす。
「いいの!? ありがとう!」
男の手を華麗に避けてひばりはスマホを再度開いた。
「お、おう」
その輝かしいひばりの笑顔を見れば、自分とのデートを優先してくれると期待していた男はもう何も言えない。
「まぁ、俺はいつでも会えるからなぁ」
一生懸命自分のプライドを守る男の言葉を全てスルーし、ひばりは次の目的地までのルートを検索しだした。
「じゃあみっくん、バイバイ!」
ひばりは男に可愛く手を振りそして駅へと向かった。一方の男は服の袖から見えるひばりの細くて白い指先に見惚れ、何も言えずにひばりを見送る。
ひばりが見えなくなったところで男はスマホを取り出し、「またな」とひばりに送った。しかし金輪際そのメッセージがひばりに読まれることも、その又の機会が訪れることはない。
男の淡い恋心、それを一蹴するひばりの「飽きちゃった」の一言。軽い言葉の重さたるや、男に一生の傷を負わせる。
ひばりとの思い出を抱きしめて生きていこうとする健気な男ならばいいが、変な見栄やプライドがあるならばこれまた見苦しい。あることないこと言いふらし、ひばりにふしだらな女というレッテルを張ろうとするが、それも「誰だっけ?」のひばり一言でまた一蹴される。
「男は馬鹿よ、だって女を馬鹿だと思っている」
そう呟いて、ひばりはスマホをバックに仕舞った。
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