起爆剤
電話を切るとひばりはスマホからカノンを流し、それをベッドの上に投げた。そして灰皿の上に乗ったタバコを灰皿に押し当て火を止める。
ひばりの全身を映し出す大きな鏡の前にひばりは立った。うっとりと自分を見つめるひばりの眼差しは、この世に存在する他者全てを愛する能力を失った哀れな人形のようだ。
淡い桃色のカーディガンを脱ぐと、ひばりは純白の綿を使ったタンクトップ姿となり色白の身体を露わらにした。
鎖骨付近に鼻を近づけ目を細めた後、ひばりはどこかへ向かう。
暫くするとリビングにまで水が床に落ち跳ねる音が聞こえて来た。数分後タオルを胸元まで覆うように体に巻いて、ひばりはまた鏡の前に戻って来る。濡髪のひばりの色気は、モナ・リザにも勝る。その姿は美の化身と言っても過言ではない。
美しいと言っても足りず、けれど絢爛というわけでは決してなく、どこか重厚感のある麗しさをひばりは持っていた。
鏡の前で躊躇することなくタオルを脱ぎ、ひばりは自分を抱きしめ鏡に背を向ける。見返り、鏡に映る自分の尻から背中にかけての曲線美をうっとりと眺めていた。ひとしきり眺めた後、ひばりは足元に落としていたタオルを手に取って、髪の毛を掻き上げ右手を支えに鏡に寄りかかる。
鏡の中の自分と数センチの距離感で対峙し、右の口角を上げたと同時に右目を細めた。ひばりの右目の下にある泣き黒子は、自分のいやらしさを十分に理解しながらそこに存在し、酷くあざとい。
「綺麗でしょ」
華奢な肩に、ひばりは歯を剥き出しにして噛みついた。くっきりと綺麗にひばりの歯形がひばりの肩に痕となって現れる。
「これは起爆剤」
フフ、と小賢しく笑みを浮かべるひばり。これほどまでに白の似合う軽薄な女は、ひばり以外にはきっと存在しないだろう。
装着された赤と黒の下着は、ひばりの白い身体の上では色気を増す。何色にも染まれる白色であるくせに、誰にも染められようとしないひばり。いや、もしかしたらもうすでに誰かに白く染められてそれが気に入ってしまったのかもしれない。
先ほどの下着のコケティッシュさを忘れるほど、ひばりの今日の服装は清楚であった。きっと今日のデート相手の好みに合わせた装いなのだろう。軽く化粧をして最後の仕上げに口紅を塗る。
「行こうか」
鏡で身なりをチェックして、ひばりは火元を確認すると家を後にした。
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