第9話 真相
美鈴さんを殺したのは俺ではないのか?仁美は生きているのか?
そんな考えが頭の中を埋め尽くしている。俺はどうしていいか分からず、ベットに寝そべって天井を見上げていた。何もする気が起きなかった。
あれから一週間が足った。
俺は風呂、洗濯、料理、掃除、ごみ捨てのすべてを投げ出した。家の中は一週間で荒れ放題になっていた。お昼を食おうとカップラーメンを探したが在庫が尽きていた。何か食べられるものをと思って冷蔵庫を開けると、こちらも調味料以外ほとんど何も無く俺はため息をついた。自分の空腹には勝つことが出来なかったので、簡単にシャワーを浴びた。久しぶりのシャワーだったからか、髪を洗うときに油が溜まっていたのが分かる。水を流すときの感覚が今まで感じたことがないほど気持ち悪かった。
家を出ると、太陽の明るさで目を開けることが出来なかった。俺は手で光から目を守りながら近くのコンビニに向かった。コンビニでカップラーメン、菓子パン、弁当をある程度買って帰ろうとしたとき、道の先から、仲の良い姉妹と思われる女の子達がトランクケースをひきながら歩いてくるのが見えた。それを見たとき、俺は自分の心臓を誰かに握りしめられたかの様に苦しくなり、息が吸えなくなった。俺は気持ち悪さから一生懸命逃げるように家に走って帰った。息苦しさは、女の子達から離れると消えていたが、気持ち悪い感覚は今でも俺の中に植え付けられ残っている。そのまま、俺はまた現実から逃げるようにベットに倒れた。
次の日の朝だった。
ピンポーン、っと鳴ったので、ふらふらと心もとない足取りで、玄関に向かった。
「大丈夫ですか?」
林さんは俺が憔悴しているのを見ておどろいた。
「はい、少し仁美が心配で寝付けなかっただけですよ」
俺は無理に笑顔を作って林さんに答えたが、林さんに嘘が通じるわけもなかった。
林さんは、俺を真剣なまなざしでみた。俺はどうしてか目をそらすことが出来なかった。
「話したくないことなんだと思います。でも、一人で抱え込みすぎないでください。僕があなたの味方であることは最後まで変わりません。僕はあなたのことを困っているこの町の住人としてではなく、一人の友人と考えています。僕が勝手に思っているだけですが、あなたが困っているならどんな時でも、どんなことでも僕は全力で浩一さんを助けると誓います。だから、なにか助けてほしいことがあれば僕を呼んでください。やっさんの時みたいなことはあまり協力したくないですが、僕があなたの助けになれるなら、それであなたが救われるなら全力で手助けをしますから」
その言葉を聞いたとき、俺は自分の中の気持ち悪さを取ってもらったように感じた。今の俺には、林さんの言葉は優しすぎた。俺を助けてくれると言ってくれている人がいることがこんなにありがたいことだとは感じたことがなかった。
俺はその時、初めて林さんの前で涙を流した。林さんは何も言わず、俺のそばにいた。俺にはその行動から「大丈夫ですよ」っと言われているような気がした。
落ち着いてきた後、
「こんな俺のために声をかけて協力してくれてありがとうございました」
心からの言葉だった。
「気にすることはありませんよ。僕は自分が正しいと思ったことに突き進んでいきたいだけなので。それにまだ捜索はおわってませんから、お礼を言うのはすべて終わってからでお願いします」
笑いながら言ってくれる林さんは本当にいい人だった。
俺は林さんが帰った後、急いで準備を始めた。
車を飛ばし、地元に戻ってきた。
「浩一?急にどうしたの?」
母さんは俺があまりに慌てて帰って来たので驚いていた。
「母さん、ごめん。全部終わったら話すから、今はただ聞いてほしいことがあってさ。俺は、心配しすぎていつも本人たちよりも大騒ぎする父さんと母さんが苦手だったけど、嫌いではなかった。いや、むしろ好きだったよ。だから、ありがとね」
父さんと母さんは、俺が急に話したので困惑していたが、
「そんな風に言ってくれる日が来るとは思わなかったわ。でも、お礼を言うなら私たちもよ。こんな私たちの子供として生まれてくれてありがとね」
母さんは涙まじりにそう言った。
そのまま、俺は車を飛ばし、林さんのいる交番に向かった。
「林さん、俺のばかげた話を聞いてくれますか?」
俺の覚悟を決めた顔を見て、林さんは少し驚いたが、
「どんな話でも聞きますよ。僕は、あなたの味方ですから」
そこからの流れは早かった。俺の話を聞いていた林さんは戸惑いを隠すことが出来ない状態だったが、俺に連れられウサギがある森に入り、そのままの流れで俺とともにあの女のもとに向かった。
女を刺激しないために俺の友人ということで警察官の格好ではなく、私服で向かった。林さんは女を見た後、警察署の方に応援を呼びかけた。林さんの必至な説得により、女の身柄は取り押さえられた。
事件の真相はこうだった。
あの女の正体は、この町に潜伏していた殺人犯だった。俺が、ひき逃げ事件を起こしたあの日、逃げて来た女は道路で死んでいた美鈴さんを発見した。美鈴さんは、森で自殺するために自分の身分証や印鑑、通帳の貴重品すべてを森に捨てるために持ってきており、遺書に最近の自分の置かれた状況を事細かに書いてあったのだという。
遺書を呼んだ女は、自分が美鈴さんに成り代わるために、ひき逃げが発覚してしまう遺体、血痕のついた地面の土などを処理した。舗装された道路ではなかったため、証拠の隠ぺいはすぐに終わり、そのまま美鈴さんの家に向かったらしい。あのウサギは女の趣味で、ほんとは死体と話したいがそれだと人に臭いできずかれるため、ぬいぐるみに被害者の血をつけて、おしゃべりするのが楽しいとのことだった。
警察が女の潜伏していた美鈴さんの家を調べたところ、キッチンの下に隠れた収納スペースが発見され、そこから高校生と思われる女の子の遺体が発見された。
求めたものは平穏だけだったのに... ミイ @miku4429
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