第5話 昔なじみの知人
俺は両親に会うため、地元に帰ってきていた。
両親には仁美が見つかってから連絡をしようと思っていたのだが、捜索が難航している現状でいつ連絡できるかもわからないので伝えようと思ったのだ。
「父さん、母さん、ただいま」
「浩一、お帰り。元気にしてた?」
母さんは仁美のことが気になっているだろうに、目の前の俺のことを優先してくれている。本当に優しい人だ。
「元気にしてたよ」
俺はできる限り、いつも通り笑って答えることに専念した。
「それでさ、仁美のことなんだけど…」
「大丈夫よ、わかってるから。あんたは全力で探してくれてるんでしょ。仁美が帰ってきたら、みんなであの子にこんなに探したんだぞって、言ってやりましょ。
その時に一緒に聞くから、無理して言うことは無いよ」
母さんは俺が今回のことをなんて言えばいいのか悩んでいるのを見てか、何も聞いてくることは無かった。
母さんたちは俺に聞いてこない代わりに自分たちがやってきたことを教えてくれた。
仁美が俺のところに着いていないと分かったときから、知り合いのお母さんたちに電話をかけて仁美が来ていないか聞きまわっていたらしい。
しかし結局、仁美はどこの家にもいないことだけが分かっただけだったらしい。
俺は母さんから話を聞いた後、仁美の友達で、昔はよく一緒に遊んでいた
「真子ちゃん、久しぶり。急で申し訳ないんだけど、少しどこかで話を聞けないかと思うんだけど」
「あ、あの、お久しぶりです、お兄さん」
真子ちゃんは、久しぶりに話すからか、どこか緊張している様子だった。
俺たちは、近くのファミリーレストランで待ち合わせをした。
「どれでも好きなものを頼んでね。なんでもご馳走するよ、もう少しいいところの方がよかったかもしれないけど」
「いえいえ」
真子ちゃんは、首を一生懸命横に振りながら答えた。
真子ちゃんが頼んだパフェは、細長で下に行くほど細くなっているよくあるパフェのグラスなのだが、とにかく盛り付けがすごかった。
グラスの中には三層のカラフルなソースを入れており、その上にクリームが盛られ、果物をこれでもかと言わんばかりに使って盛り付け、それでも飽き足らずその上にまたクリームがその上に果物やチョコレートのお菓子がささっていて、見ている俺のほうが胃もたれしそうだった。店員さんも新人の子だったのだろうか、少し危なげに見えて、目の前で盛られたパフェが倒れてしまうのではないかとひやひやしたが、何とか無事に真子ちゃんの前に届けられた。真子ちゃんは、まづ最初に上にささっているお菓子から処理していくようでモシャモシャと食べている姿は小動物のようで可愛らしかった。次はどう攻めるのかと、試合の行く末を見守っていると、なんとも驚き、細長いスプーンを迷うことなく下まで刺したのだ。これは相手も予期せぬ一発だったのではないかとも思ったが、崩れることはなく、真子ちゃんは十分ほどで食べきってしまった。女子高生恐るべし。
真子ちゃんが食べ終わったので、俺は本題に入らせてもらうことにした。
「それでね、真子ちゃん。今日来てもらったのは、仁美のことを聞きたかったからなんだ」
俺がそう言うと、真子ちゃんの顔がみるみる青くなっていった。
「どうしたの、真子ちゃん!大丈夫?」
真子ちゃんは俯きながら、
「だ、大丈夫です」
と言った。
「あ、あのそれでね。仁美から夏休み中になんか連絡とかなかった?」
「え?えっと、私への連絡ですか?」
どうしたのだろう?さっきから、真子ちゃんの様子が少しおかしい。
仁美はよく真子ちゃんと電話をしているのをよく知っていたから真子ちゃんが何に驚いているのかが分からなかった。
「すみません、仁美とは最近あまり連絡を取ってなくて」
もしかして、仁美とケンカをしていたのだろうか。いつも仲の良い二人だったからそんなことは無いだろうと思っていたのだけど、
さっきから様子が少しおかしいし、仁美からなんか言われて来たと思ってしまったのだろか?それなら、他に仁美と連絡を取っていた子がいなかったかだけでも教えてもらおうと思った。
「ごめんね真子ちゃん、質問してばっかで。これで最後なんだけど、仁美と連絡を他に取っていた子が誰かいなかったかな?」
俺がそう言ったとき、真子ちゃんは顔を上げ、俺の顔を見た。
その顔は、恐ろしいものでも見たかのようで不安に満ちていた。
「ごめんなさい、ごめんなさい」
真子ちゃんはそのまま席を立ち、走ってお店を後にした。
真子ちゃんが涙目になっていたように見えたのは気のせいではないような気がするが…。
本当にどうしたんだ?
俺は真子ちゃんに走って逃げられてしまった後、真子ちゃんに聞けなかったので、学校の担任に会いに行くことにした。
学校は俺がいたときとなんら変わりなく、とても懐かしい。思い出に浸りながら校舎の中を歩いていると、
「浩一君?」
後ろから話しかけられたが、振り返らずとも分かる。この、優しさに満ち溢れた声は事務を任されている
「お久ぶりです。お元気そうでなによりです」
俺は高一の時、日下部さんが荷物を大変そうに運んでいるのをみて、「手伝います」と、声をかけた。それからも、日下部さんの手伝いをちょこちょこしていたためか、ある日、放課後に事務室に来てほしいと言われて行ってみると、お礼とのことでお菓子が並べられていた。その日から放課後は日下部さんとしゃっべって過ごすのが日課になっていたほど日下部さんとは仲良しだった。
「いやぁ、見らん内に大人になったねえ。俺ももう年かな?」
悪だくみをする子供の様ににんまりとしながら言うのだからこの人は本当にいつまでも子供心を忘れることは無いのだろう。
「相変わらずですね。その様子じゃ、あと十年は仕事、続けられますよ」
俺も笑って返すのがお決まりのようになっていた。
日下部さんとの話は楽しいが、今は急いでいたので日下部さんにもう一度挨拶だけして別れて、職員室を訪ねた。
「すみません、
「はい、私が高橋です」
奥の方で俺より少し年上の女の人が席を立った。俺が卒業した後に来た先生だなと思った。
職員室の隣の資料をため込んでいる部屋に招かれた。資料が窓辺に積まれ、机が一個と椅子が二個あるだけの小さな部屋だった。
「すみません、ここしか部屋が使える部屋がなくて」
「いえいえ。急に来てすみませんでした」
「大丈夫ですよ。それで、お話と言うのは?」
「あのですね、妹の仁美がお世話になっていると思うですが?」
そう言ったときだった。高橋先生は驚き、そして申し訳ないような様子になった。
「すみませんでした。私が不甲斐ないばかりにこんなことになってしまって」
高橋先生は、椅子から立って深く頭を下げた。
俺は何が何だか分からなかった。
「あ、あの、どうなさったんですか?頭を上げてください」
「今回の吉水さんへの嫌がらせは防ぐことができたかもしれないんです、本当にすみません」
「えっ!仁美は嫌がらせを受けていたんですか?」
「えっ」
高橋先生が落ち着いた後、話を聞いてみると、仁美は二年生に上がり少したってからいじめにあっていたらしい。
いじめの原因は真子ちゃんをかばったこっとから始まったらしい。
二年生に上がり最初の標的は真子ちゃんだったらしい。だが友達思いで、正義感の強い仁美は真子ちゃんが嫌がらせを受けているのを知ると、
真子ちゃんを守ったのだということだった。その後はありきたりな話で、それをよく思わなかった奴らが標的を仁美に代えたとのことだった。
それでも、仁美は毎日学校に通い、心配しすぎる両親にばれるまいと、担任にも相談せずに戦っていたのだった。
高橋先生がいじめを知ったのは、夏休み直前のことだったのだという。放課後、真子ちゃんが必死な様子で相談しに来たらしい。
真子ちゃんは、泣きながら自分のせいで仁美が傷ついていると必死に先生に訴えたのだった。
高橋先生はすぐに行動に移し、まず仁美に話を聞いたらしい、すると仁美がまず最初に言ったのは、「両親は過度に心配するとこがあるのですべて片付いてから私から言いますから、
先生からは言わないでもらえますか?」だったらしい。どこまでも人のことを気にしている優しい子だ。
真子ちゃんと連絡を絶ったのは仁美からだったらしい、自分が真子ちゃんと関われば真子ちゃんがまた嫌がらせを受けてしまう。
だけど真子ちゃんは優しいから、自分のせいでと思って自分を守ろうとするかもしれない。だから、嫌っているふりをしたのだ。
俺は仁美に嫌われたと思っても、仁美のために担任に話をしに行ってくれた真子ちゃんに本当に感謝した。
高橋先生は話を終えた後も、何度も何度も謝っていた。
俺は家に戻り、仁美の学校でのことを知ることはできたが、仁美と連絡を取っていそうな友達がいないという事実を受けてまた落ち込ちこむこととなった。
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