第2話  さらなる悲劇

 あれから二週間が過ぎた、

轢き逃げ事件の話は一切出ることはなく、仕事を探す気がまだ起きないので家でテレビのニュースをずっと確認しているだけであった。

トゥルルルル、電話の音を久しぶりに聞いた。

「はい、吉水です。」

 警察ではないかと、不安に思いながら電話に出た。


「あぁ、浩一?母さんだけど、仁美はちゃんと到着できたの?連絡取れなくて。あの子ったら、「ついたら連絡すぐにしなさいよ」って言ったのに」

「えっと、ごめん。なんの話か分かんないんだけど」

「何言ってんの。仁美よ。仁美。遊びに行ったでしょ?」

 こんな朝から電話しているのだ。こっちに来るのが昨日だったのなら、まだ仁美が来てないのはおかしくはないか?

「母さん。仁美が家を出たのはいつなの?」

「え、昨日の朝だけど」

 俺がやけに真面目に聞くので、電話の向こうの母さんが察したのか。

「まさか、まだ来てないの?え、ほんとに来てないの?」

「母さん、落ち着いて。夜遅くなって、カラオケとかで朝までいたのかもしれないし。俺からも連絡してみるから。何か分かったら連絡するから」


 母さんを落ち着けるために言ったが、実際のところ、昨日の朝からなら遅くても夜には確実にこっちにつくはずだ。

まずは携帯に電話をしてみるが電源が入っていないようだった。焦っても仕方ない、一旦夜まで待とう。

俺の願いはかなわず、妹は次の日になっても来ることはなかった。

俺は朝早く、家を飛び出し警察署に駆け込んだ。



「最悪だ。なんなんだあいつらは」

警察に事情を説明し捜索願を出そうとしたとき、焦る俺に警察官が言った。

「大丈夫ですよ。最近の子はよく家出みたいなことをするから、親御さんが心配するようなケースが多くてですね」

 警察官は、笑いながら続けて言う。

「私たちもいつも困ってますよ。数日たてば、子供たちが帰ってきたとか。友達の家に泊まってたとか。まぁ、妹さんも同じ感じですよ」


 俺は警察官の対応にひどく腹が立った。あいつらはちゃんと探す気がこれぽっちもないのだ。

仁美は今まで夜遊びも一度もしたことがない子だぞ!なにか事件に巻き込まれていたらどうするんだ。

「あのすみません」

 後ろから急に話しかけられたため、びっくりしてのけぞってしまった。

「な、なんでしょう」

 振り返ると、俺と同じぐらいの身長で背筋がまっすぐ伸びていて、優しい雰囲気を出している警察官が立っていた。

もしかして、さっき文句を言ったのも聞かれていたのではないだろうか。

「ご迷惑かもしれないのですが、僕でよければ妹さんの捜索を協力させてもらえないかなと」

「え、捜索してもらえるのですか」

 俺は、うれしいがあまり警察官に近づきながら、警察官の言ったことを確認した。

「上司からの命令とかではないので、しっかりとした捜査はできないんですが」

 警察官は、自分の顔を手で守るようにして、俺が近づくのを防ぎながら言った。

「良ければ交番で話を聞かせてもらっても?」

 話しかけてきた警察官は林誠はやし まことと名乗った。


「それじゃあ、妹さんは二日前の朝から行方が分からないんですね」

林さんは少し考えていたが、考えがまとまったのか。俺の目をまっすぐ見てきた。

「話を聞く限りでは、妹さんはすごくまじめでいい子だと思います。だから、家出の可能性は低いと思いました」

 そこまで言った後、林さんは少し言いにくい様子でつづけた。

「ですが、僕一人が捜査に協力しても大掛かりな捜査はできるわけではありません。ですから、僕たちでもできる範囲を一旦捜索しましょう」

 こうして俺たちは妹がまずこの町に来たのかを調べるべく、町の人に妹を見なかったか聞いて回った。

結果として、何も情報を得ることはできなかった。駅やコンビニにある監視カメラを見れればよかったのだが、駅は無人駅で監視カメラ自体無く、コンビニは町に一店舗だけで得られる情報は少なすぎた。



 林さんと出会ってから二日が足ったが、情報を得ることはできなかった。

どうにか家からこの町に来るまでの間の情報を得られないかと考えていると、駅員の格好をした男が訪ねて来た。


「誠ちゃん、俺の鍵知らんかな?」

 駅員は身長が百六十ぐらいで、猫背でもあるのですごく小さく見えた。

「やっさん、お久しぶりです。復帰したんですか」

「おうよ、見ての通りピンピンしとるよ」

 

 二人が知りあいのようで会話をしているので、俺が誰だかわからず困った顔をしているのを見かねて、林さんが教えてくれた。

このやっさんと呼ばれている人は、駅の清掃を任されており、時々駅にいるのだとか。

「そうそう、それで鍵失くしたんですか?」

「そうなのよ。ポケットに入れたと思ってたんやけど」

 やっさんはポケットをポンポンとたたきながら言った。

「前みたいに、財布にあるんじゃないんですか?」

「まさか、あるわけないやろ」

 と言って、財布を見たやっさんは苦笑いしながら立ち去ろうとした。

「やっさん、気を付けてくださいね」


 立ち去ろうとしていたやっさんは机の上においてある妹の写真を見てちょっと気になった様子だった。

「妹の写真がどうかしましたか?」

「おぉ、この子は兄ちゃんの妹か。元気にやってるか?あの夜は夏なのに少し肌寒かったからな」

 やっさんは肌寒かったのを表現するように、肩から肘までを両手でさすって見せた。

「あの、すみませんがあの夜というのは?」

「うん?この子が町に来たこの前のことさ」

 俺は、驚きながらもやっさんの肩を強くつかんでいた。


「妹を見たんですか?」

 やっさんはひどく驚いていたが、妹を見たときのことを説明してくれた。

やっさんが言うには、妹が実家を出た日の夜、たまたま清掃で駅にいたときに、スマホとにらめっこしている女の子を見つけたらしい。



 やっさんに話を聞いた夜、俺は家でこれからどうするべきか考えていた。

やっさんのおかげで妹がこの町に来ていたことが分かった。なら、捜索範囲はこの町でいいはずだ。もう一度、みんなに話を聞いて回ろう。


 次の日から、俺は休むことなく住民全員に林さんと手分けして話を聞いて回った。

あれから何日足っただろうか?新たな情報を得ることは一向にできず八方塞がりだった。

「浩一さん、正直もう休まれた方がいいと思います。一度この件は僕に任せくれませんか?上ともう一度掛け合ってきます」

 林さんが俺を心配してくれているのがよく分かったので林さんの言う通りにしようと思い、

「それじゃ、妹のことをどうか宜しくお願いします」

 と言い、深く頭を下げた。


 林さんに言われた通り家で休むことにしたが、仁美のことが気になってしょうがない。俺は、家に飾ってある十年ほど前に家族が遊びに来た時の写真を見ていた。

「仁美、どこ行っちまったんだよ」

仁美の笑顔をもう一度見たくなり写真に向かって独り言が出てしまう。ふと写真の中の仁美が手に付けているブレスレットが気になった。そういえば、この時期から仁美はブレスレットをいつも付けていた。

たしか、十年前仁美が迷子になって家族総出で探した時から付けているような気がする。結局、仁美は若いお姉さんに連れられ交番に居たんだった。

その時の、お姉さんからもらったとか言ってなかったか?

そういえば、こっちに来るたび知り合いに会いに行くとか言っていつもどこかに出かけていた。近所の子供たちと遊んでいると思っていたが、お姉さんのところだったりはしないか?

 一つ、道が見えたことで俺はいてもたってもいられなくなっていた。

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