3F 黄色いカーディガンの先客
ある三つ編みの少女は言った。
「運命の人に愛されないなら生きていたって仕方ない。だから屋上に来た」
けれど彼女は、自分の居場所が、その人の隣にしかないと
また、ある背の低い少女は言った。
「いじめられて苦しい。だからここにきた」
しかし、彼女もまた勘違いしていた。彼女にも、確かな居場所があった。家族という味方がいた。
二人は納得して屋上を去っていった。その後のことは知らないが、きっとどこかで生きているのだろう。
ほかにも何人か、悩みを
しかし、たいていは「話聞いてもらったら気が収まった」と言って、帰っていった。彼女たちは、
今日もわたしは
靴を脱ぐ準備はいつでもできている。
しかし、なぜだろう。わたしがそこへ行くときに限って、いつも、誰かがそこに座っていた。それはこの日も同じだった。
(またか……)
大した事でもないのに飛び降りようとする人が多すぎる。内心そう
「ねぇ」
「……」
「何してるの?」
屋上の
「ねぇ、聞こえてるんでしょ。こっち向きなよ」
半ば
「そっち行くからね」
ここまで言えば、来るなとでも言われるのではないかと思ったのだが、彼女はここですら応答せず、
おかしい、とわたしは小さく首を
「どうしてこんなところに来たの。どうして飛び降りようと思ったの」
いつものように、声をかける。今までと同じだ。大したことのない理由で、わたしより先に死なせなんかしない。
「なんか言ってよ。別に、止めようとなんて思ってないからさ」
すると彼女は、突然、羽織っていたカーディガンを脱いだ。その下からは
しかし、わたしの視線はその衣服にはなかった。思わず、はっと息をのむ。
「……それ……」
カーディガンを置いた少女が私の方に振り返る。
長い前髪の
そして何よりも。
「その、
彼女の腕には、
今までなら「やめなよ」と言うところだったのに。
少女は口元に冷笑を浮かべた。まるで鏡だった、この女の子は。
「もう、いいよ。わかったから。それ着て」
「そう」
再びカーディガンを羽織った少女は、中空に足をブラつかせた。
どうしよう。心の中がざわつく。初めてだった。こんなに似た悩みの少女は。
どうしよう。何を言えば……。
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