1F 三つ編みの先客3

「くだらん」


 少女は欠伸あくびまじりに吐き捨てた。体育座りで頬杖ほおづえを突き、心底つまらなそうな表情を浮かべる。


「くだら……ない?」

 沸々ふつふつと怒りがこみ上げる。同情されることはあったとしても、そんな風に言われる筋合いはない。まして、面識のない人間に。


「あなたには、私の気持ちはわからないでしょう!?」

「わからないわ。あなたの気持ちも、彼の気持ちも、あなたがここへ来た理由もね」

「そんないいかげんな態度で私のことを止めに来たわけ?」


 ばかばかしい。こんな人間に話すべきじゃなかった。

 けれど、よかった。そのことを、気付くことが出来て。

 もう猶予ゆうよはいらない。いますぐこの腕を振り払ってここから……。


「勘違いしないでよ」


 そのとき、少女は再び私の腕を強くつかんで言った。


「わたしはあなたを止めに来たんじゃない。言ったでしょ。納得したら落としてあげるって」

「どうしてあなたのことを納得させないといけないの」

「そういうところじゃないの? 彼がいやだったのは」 

「はっ……?」

「あぁ、でも、彼は自分が悪いって言ったんだったっけ。じゃあ、あなたに非があったわけじゃないのか」

「……そう。そうよ。私は、何も……」


 彼女の物言いに、すぐにそう言い返せなかったのはなぜだろう。


「とにかく、あなたがここに来た理由はそれだけじゃないでしょ。別れを告げられたことだけが原因なら、帰り道に電車にでも飛び込めばいい話だし」

「ひどい、言い方ね」

 しかし、確かにその通りだ。別れ話にはつき物の、続きがある。


「続きをどうぞ」


 何もかも見透かしているかのような彼女の瞳。顔をそむけて私は、また語り始めていた。




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