日常
桜のしっとりとした温度を含んだ四月だった。初々しい早朝、僕はまばらな通学路を歩いた。
樹木が落ち着きなく揺蕩っていた。梢が揺れてけたたましい葉擦れの音を響かせていた。海に程近いこの場所ではこのような暴風が日常茶飯事なのだ。
校門を抜け、両脇にある校庭を眺めながらプロムナードを進んだ。下駄箱に到着するが否や、毛玉みたいにくしゃくしゃになった髪を手櫛で整えた。
「まったく……遺伝も考えものだな」
これで三十秒はロスした。今日も今日とて変わらない日常である。
急いで靴を履き替えて、足早に教室へと向かう。吹き抜けの廊下を駆け抜けた──その時である。
ブチリッと何かが破れる音がした。途端、リュックサックから教科書だの文庫本だのが溢れ出し、それは盛大に床に散乱した。冷や汗まじりにリュックサックを見やると、ファスナーが完全に壊れていた。
「くそ……なんでこんな時に……」
不運だ。僕は物事を先延ばしにしたり、準備を怠ってしまう悪癖がある。今回もその性質が原因だ。
「──ほら、手伝うよ」
冷や汗まじりに教科書を拾い集めていると、突然、聞き覚えのある声が響いた。振り向くと、いつの間にか親友が佇んでいた。
「お前……いつから……」
親友は黙々と散乱した教科書を積み上げ始める。
「……僕のことは構わなくていい。早く行け。でないと遅刻するぞ」
僕は本を回収しながら抗議した。こんな事で親友を巻き込んでしまうのは申し訳なさすぎる。
「いいんだよ。キミの子守りは俺以外の誰にも務まらないからなぁ」
「あのなぁ……」
僕はなんとも言えない気持ちになりながら、手早く散乱した私物をかき集めた。
親友は「それに」と付け加えて、
「まだ遅刻が確定したわけじゃない。急いで飛び込めば間に合うかもしれないぜ」
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